JIA Bulletin 2020年秋号/覗いてみました他人の流儀
山口太郎氏に聞く
ヴィンテージ家具を通じて
北欧と長く関わっていきたい
山口太郎

今回お話をうかがったのは、神奈川県伊勢原市にある「北欧家具 talo」の店主山口太郎さん。広い倉庫のような店内には、フィンランドやデンマークで買い付けたヴィンテージ家具がずらりと並び、そのひとつひとつが丁寧にリペアされ、また良心的な価格で販売されています。
北欧家具との出会いや買い付けについて、さらにヴィンテージ資源の今後についてうかがいました。

―北欧家具に興味をもったきっかけを教えてください。

 24、5歳の時、何か自分で仕事をしたいと思い、テレビで見た買い付けの仕事がかっこよく見えたので、輸入業をするためにアメリカに行きました。しかしうまくはいかず、父が経営していたリサイクル屋を手伝うことになりました。正直リサイクル屋なんてゴミ拾いのようなものだと思っていたのですが、やってみると汚いものを磨くのが自分にしっくりきたのです。その後リサイクル屋をやりながら2、3年海外で買い付けを続けるのですが、やはりうまくいかず、すっかり熱意が削ぎ落とされてしまいました。
 そんな時に母から幼なじみの関本竜太さん(現JIA正会員/広報委員)がフィンランドにいると聞き、気分転換に押しかけたのです。幼なじみといっても10年以上空白があったのですが、友達ヅラして遊びに行きました(笑)。そこからすべてが始まりました。

―フィンランドでどんな出会いがあったのでしょうか。

 関本さんがいろいろなところに連れて行ってくれました。「これは誰がデザインした」「これは誰が設計した」と丁寧に教えてくれて、とくに「このゴミ箱は誰がデザインした」と駅で教えてもらった時は衝撃でした。ゴミ箱をデザイン?ゴミ箱ってホームセンターで売ってるものじゃないの?と。“誰かがデザインした”ということがとても新鮮で、それまで家具に興味はなかったのですが、次第に面白いと思うようになり、4日間の滞在中にヴィンテージショップに連れて行ってもらい、貯金のほぼ全額30万円でエーロ・アールニオやウリヨ・クッカプーロなどの家具を6、7点買いました。その時は買い付けが自分の仕事になるとは思っておらず、とにかく自分が情熱を傾けられるものが見つかったと感じました。
 しかし、数ヵ月待っても買った家具が届かない。購入したヴィンテージショップの店主ユッカは、家具を30万円分買って、送料は3万円くらいと言いました。今、冷静に考えると送料がそんな安いわけない。だまされたと思って、直接文句を言いにまたフィンランドに行きました。そうしたら「よく来たな」と歓迎されて……。文句を言うつもりが今度は倍買ってしまいました。そこから8ヵ月間また届かず、さすがに「俺は2回も何をやってるんだろう…」と諦めていたら、1回目の荷物と一緒にすべて無事届いたのです。しかも何点かおまけつきで。

―届いた家具はどうしたのですか。

 当時都内のインテリアショップのバイヤーが神奈川近郊でミッドセンチュリーや昭和家具を探し回っていた時期で、リサイクル屋に並べたら簡単に売れたのです。だからまたフィンランドに買い付けに足を運ぶようになり、年に1回が次第に2回3回と増えていきました。
 そして32歳の時に北欧家具一本で食べていこうと決心し、独立しました。店名の「taloタロ」はフィンランド語で「家」という意味なんですが、自分の名前と発音が同じということで店名にしました。
 不思議なことに、最初にトラブルのあったヴィンテージショップのユッカとは、そのあとパートナーとして一緒に仕事をしていくことになりました。彼はとにかくセンスがよかったですし、何も知らない僕をデンマークやスウェーデンの有力店の店主とつないでくれました。僕が独立した時にすでにそういう人脈ができていたのは、すべて彼のおかげです。その関係は彼がスイスに引っ越すまで、約10年間続きました。

―taloではヴィンテージ家具を現地と変わらない価格で販売しています。なぜそれが可能なのですか。

 この仕事でネックになるのは物流コストです。良いものを買って高く売る選択肢もありますが、あえてそうせず、輸入する点数を増やして1個あたりの輸送コストを下げることでビジネスを成り立たせています。当時北欧ヴィンテージ家具は5万円で買ったらそこに渡航経費なども乗せて売るのが当たり前でした。でもそれではいつまでも企業として成長しません。企業努力をすれば長く続けられるし、それが差別化にも繋がると考えました。他店と比べて安価な販売価格かもしれませんが、自分としてはフェアな値段だと思っています。
 1点でも多く運ぶために、コンテナに無駄なく入るようにボリュームを計算しながら買い付けます。買うものは椅子だけではなく大きさはさまざまですが、目安としてコンテナ1本に600ピースくらい、400を割らないようにしています。

―商品はどのようにして見つけるのですか。

 昔は歩いて探しましたが、今はスマホで情報が得られる時代です。どこに良いものがあるかという情報をいかに得られるかが大事になってきています。情報をもらうためにも彼らには誠実に向き合わないといけません。北欧人に対してディスカウントを押しつけてしまうと2回目は絶対にありません。彼らはフェアという言葉が好きで、値切ることもふっかけることもしないのです。

―買い付けた家具はどのように集めていくのですか。

 コンテナを置いている場所に持って来てもらうか取りに行きます。ここがスキルの見せどころなんです。輸入屋は、まず第一にコンテナに無駄なく収める感覚がないとできません。2つ目に大事なのは手配。北欧人のマインドと生活リズムを理解して手配することが重要で、買い付けは4番目か5番目。例えば土日は働かせないなど、気持ちよく動いてもらえるテクニックがあるかどうか。僕はヨーロッパ人とのマインドの通訳ができます。怪しい人には怪しい人への対応があるし、その対応を最初の段階で見極められるかが買い付けでは非常に重要です。


膨大な数の北欧家具が並ぶtaloの店内

―リペアにもこだわりがあるそうですね。

 人が使うものは清潔感がないとダメだと思っていて、見た目がヴィンテージでも、機能が劣っていてはいけないということが自分の中の線引きです。ガタつきはいいけれどゆるみはダメ。ただ直せばいいというものではなく、直して台無しになる場合もあります。そのさじ加減を社員に共有してもらうのには時間がかかります。
 その他にも、張り地を張り替えるサービスや、工房で工具を自由に使ってもらえるサービスも行っています。日本は家具を自分で直す文化がないため、直して使い続けるという考えが欠落してしまっています。家具を買ってもなにかあったら捨てればいいという感覚がまだ強く、結婚したり子どもが生まれたら買い換える。つまり買い換えることをベースに家具を買いに行きます。しかし、本来、子どもたちに使わせるために何を買うか、結婚してからも使えるように何を選ぶかが重要だと思うのです。日々その思いで頑張っています。

―一方でヴィンテージ家具は今後は買い付けも難しくなるのではないでしょうか。

 ヴィンテージ家具は完全に枯渇しています。これはどうにもならないのですが、自分のビジネスでは、ものが少なくなり高値で売らなくてはならなくなるところを、自分が動かしている物流でもともとなかった利益を上げることで、売値の上昇を抑えたいと考えています。具体的には、数年前にフィンランドに物流センターを構えました。これまでに培った物流ノウハウを活かし、将来的には日本人が買い付けたものや、フィンランドのアーティストが日本に作品を送りたい時に利用してもらうのが目標です。
 今はコロナで買い付けにも行けませんが、現地の人が情報をくれたりして、今のような状況でも仕入れができないわけではありません。これまで築いた信頼関係が双方向のものであったことを実感しました。
 それから、いつの頃からかヴィンテージを扱うよりも、フィンランドに行くことが自分の生きがいになっています。若い時から日本での生活がどこか窮屈に感じていました。しかし、フィンランドに行ってピタッときたのです。自分が自分でいられる場所だと感じました。だからフィンランドに行けるような仕事を続けていきたいですし、これからはフィンランドの方たちに何かを還元できるようにしていきたいと思っています。

―大変貴重なお話をいただきありがとうございました。

 

インタビュー: 2020年6月26日 北欧家具 taloにて
聞き手:関本竜太・会田友朗・中澤克秀(『Bulletin』編集WG)

■山口 太郎(やまぐち たろう)プロフィール

1973年神奈川県生まれ。神奈川県伊勢原にて北欧のヴィンテージ家具の買付・販売・修理を行う北欧家具taloの代表。20代半ばのフィンランド旅行をきっかけにヴィンテージ北欧家具の販売を開始。現在はフィンランドにオフィスを開設し、年に10回以上渡航しながら、年間の1/3を北欧で過ごし、北欧の文化や生活の理解向上に全力を注いでいる。

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