JIA Bulletin 2022年秋号/海外レポート

マドリッド発『旅日記』
―国際建築家連合(UIA)フォーラム《Affordable Housing Activation》に参加して―

国際委員会 坂田 泉

 2022年5月、国際建築家連合(以下、UIA)はスペイン、マドリッドにて「Affordable Housing」をテーマにしたフォーラム《Affordable Housing Activation-Removing Barriers》を開催した。私は、JIA国際委員会メンバーとして、竹馬大二(同委員長)、高階澄人(同アドバイザー)と共に、フォーラムに先立つUIA臨時総会を含む5日間(5/16(月)~20(金))の全日程に参加した。

■DAY 0:5月15日(日)
 マドリッド到着翌日。明日からの臨時総会とUIAフォーラムの2つ会場の下見を兼ね、街歩き。ホテルはマドリッドでも一番洗練された通り、Gran Viaに面していて、2会場はホテルを軸にほぼ対称に位置する。
 マドリッドは大きな通りで区画された街区に一歩入ると「毛細管」のような道が広がる。街の特徴を語る上で「浸透性(penetrativity)」という指標があると思う。つまり、街の内部へと浸透できる度合いのことだが、マドリッドはきわめて浸透性が高い街だ。臨時総会が開かれるマドリッド建築家協会(COAM = Colegio Oficial de Arquitectos de Madrid)は、そういう魅力的な毛細管をそぞろ歩くうちにたどり着く。見通し、風通しのいい建物で、通り抜けられ、カフェも併設。街に開かれている。ここで世界各国から集まる建築家たちが建築や都市について語るわけだ。議論が盛り上がらないわけがない。
 第二会場は、COAMからGran Via方向に戻り、丘陵に建つ王宮を経て、アプローチ。“Estacion Gran Teatro Príncipe Pio”という劇場複合施設。昔の駅舎を改修した建物だ。こちらでは、水曜日から「Affordable Housing」をテーマにさまざまなイベント、ワークショップが開かれる。


第1会場:COAM

第2会場:Estacion Gran Teatro Príncipe Pio

■DAY 1/DAY 2:5月16日(月)/17(火)
 いよいよ臨時総会が始まる。会場に集まった各国からの派遣団のほか、オンラインでの参加者が審議に加わる。
 会場では久しぶりに会う人やスクリーン越しに見知った顔との熱い交流が続き、なかなか会議が始まらない。
 審議事項は多い。規約の改正等の「事務的」な議案はすんなり進む。しかし、国際的組織に特有のそれぞれの地域、国々のアイデンティティーに関わる話はデリケートだ。とりわけ議論が白熱したのはウクライナへの支援動議。会場にはウクライナ建築家協会の会長をはじめ、数人の建築家が参加。一方、ロシアは(もともとUIAの強力な構成員)今回は不参加。ロシアから海外への送金システムが遮断されUIAの会費が払えていない。規約によれば未納国には総会への参加資格はないのだ。
 ウクライナの建築家の訴えは胸に迫るものがあった。また、それを支援する国々のメッセージも熱い。しかし、そこにアフリカ、中南米等の「非欧米諸国」の視点が加わると、議論は一気に重層化する。単純にさあ、みんなで支援しましょうとはならない。私もアフリカとの関わりが長いから、アフリカの気持ちはよく分かる。アフリカの戦禍の歴史は長い。簡単に言えば、なぜ「ウクライナだけ」なのか?
 白熱した議論の末、動議は「否決」された。動議案のロシアへの排他的な姿勢が原因だったように思う。
 こうした審議を通じ、私は、世界から「建築家」の名の下で人々が集まり、自由に議論を展開できるUIAという場の貴重さを改めて実感した。どんなにイデオロギーや思想、信条が異なったとしても、私たちには「建築家」という共通基盤がある。「建築家」という基盤を通じて、ウクライナ、ロシア、また両国を見守る国々の「UNITY(連帯)」を形成することがUIAの本道だと思う。


左から、竹馬大二(国際委員会委員長)、
筆者(同委員)、高階澄人(同アドバイザー)

UIA会長Jose Luis Cortesによる開会宣言

■DAY 3:5月18日(水)
 今日から3日間の日程でフォーラムが始まる。「Affordable Housing」をテーマに、社会構造や文化も異なる人々が世界各国から集まって議論を重ねる。
 今回のフォーラムの「構造」はなかなか巧みだ。「Affordable Housing」に直接アプローチするのではない。「Affordable Housing」の促進(Activation)の障害となる「Barrier」を6つに分類し、Barrierごとに、それを取り除く方法、技術、制度、等々について専門家、実践家が具体的にさまざまな経験、事例を紹介するというアプローチだ。(https://www.ahamadrid.com/barrera/mismatch/
 こうした多様な専門家、実践家たちの意見をまとめることには意味がない。私たちは1つの傘ではなく、大きな樹の下で雨宿りをしている。多様な形の葉が全体として雨を防いでいる。「Affordable Housing」への道もそれぞれができることから始めればよい。私もできることから始めている。明日のワークショップではその一端をご紹介する。


フォーラム初日

■DAY 4:5月19日(木)
 UIAフォーラムもいよいよ終盤。今日は大事な仕事が2つあった。
 私はJIAからの派遣により、昨年9月から2年の任期でUIAの“Social Habitat Work Programme(社会的住宅部会)”の委員を務めている。委員は24ヵ国のメンバーから構成されるが、そのうち今回のフォーラムに参加しているメンバーと参加できなかったメンバーをオンラインでつなぎ、これからのことを話し合った。


“Social Habitat Work Programme”のメンバーと

 もう1つの「大仕事」が、「英国王立建築家協会(RIBA)」が主催する“Global Architecture Exchanges”というワークショップでの発表。私以外に、日本からは岩堀未来・長尾亜子のユニット(録画)、他にアイルランド(オンライン)、中国(録画)、英国(録画)、ブラジル(対面)、ニュージーランド(録画)、韓国(対面)、オーストラリア(録画)。
 私はここ数年、取り組んでいるケニアにおけるAffordable Housingのプロジェクトを紹介したのだが、今回はその「厚肉床壁構造」に着目し、それが東日本大震災後の福島県復興住宅の構造システムを踏襲している点に言及した。
 「厚肉床壁構造」は単純明快な構造システムなので復興の過程での住民の要望やプランの変更に対応しやすい利点がある。ケニアのプロジェクトではさらに「プレキャストコンクリート化」することで施工の効率や平明性を高めようとしている。


プレキャストコンクリートによる「厚肉床壁構造」

 また、コメンテーターとのやり取りの中では、「Affordable Housing」の開発において、国をまたぐ技術協力の可能性を指摘。ただし、何か出来上がったものを持っていくのではなく、私が組織するソシアルデザイングループOSA(注1)のモットー、“Seeds from Japan to be realized in Kenya”に表現しているように、タネは日本で考えてもカタチにするのは現地の人々と共にという姿勢が大切であることを強調した。
 日本における公共セクターの住宅供給は戦後復興から高度成長期を経て、少子高齢化社会を迎えるに及んで一定の役割を終えたと言える。そういう意味では、現代の日本には「Affordable Housing」や「Social Housing」の「好例」は乏しいと言わざるを得ない。
 しかし、震災復興住宅の技術的資産を途上国の「Affordable Housing」開発に活用していることを私自身のプロジェクトを通じて紹介することで、現代日本の「Affordable Housing」における世界への貢献の仕方の「一例」を示すことができたと思う(注2)。


“Global Architecture Exchanges”における発表

■DAY 5:5月20日(金)
 UIAフォーラム、最終日。「Affordable Housing」について、いろいろな国、地域の人々と考えやビジョンを提供しあった5日間。改めて「家」の大切さを知り、「家」を持てない人々の多さを知り、「家」が社会や環境に与える影響の大きさを知った。“Social Habitat Work Programme”のメンバーと交歓を深められたことも大きな収穫。プログラムはまだ1年以上続く。次に会えるのは、来年7月のUIAコペンハーゲン大会だろう。(https://uia2023cph.org/
 私のマドリッド発『旅日記』もここで終わる。機会があれば、来年はコペンハーゲンからお伝えしたい。

〈注〉

  1. ソシアルデザイングループOSAについては以下を参照下さい。
    http://osa-rainbow.com/assets/files/Bulletin_210301.pdf
  2. 当日の動画を右記でご覧になれます。https://youtu.be/5SkDvPAG5sM

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