JIA Bulletin 2017年1月号/海外レポート

現在の香港建築事情

安部 裕光

芝本敏彦

 アルカシア大会(ACA)出席のために訪れた香港についてレポートします。香港での会議運営取材が主目的でしたので、原則として街の様子を探るのは空港からの移動などに限定されていましたが、出発前に東京誘致の際には、駿河台の明治大学キャンパスを中心に計画することが知らされており、香港の街の中でも会議場、ホテル、学生ジャンボリーの動線や回遊性が自然と気になりましたので、それを中心に記述します。
 会議場と宿泊施設は香港島の本土に面した海辺に立地し、最寄駅Wan Chaiより会議場へは2階屋根付デッキで接続して、駅からの利便性が確保されています。この2階屋根付きデッキは、東西の大通りを南北に横断していて、幅員も十分あり昼夜とも歩行者が多く、利便性が確保され供用されている様子がうかがえました。この動線には、ビルを貫通している部分もあり、オーナーの大きな協力があると思われます。ルート上には小さな段差などがあり、車椅子の人などは周囲の人が助けようというアバウトな感じも好感が持てます。ただし、これに気付いたのは備品調達のために会議を抜け出した最終日という有様でした。
 会場となるSOM設計のコンベンション、香港会議展覧中心施設には合築のホテルが2軒あり、予約した公式ホテルと名前も似ていたため、当然そのうちの一つだろうと早合点してしまいました。チェックインしようと辿り着いてから誤りに気づき、でこぼこの歩道を大きな荷物とともに移動する羽目になりました。公式ホテルに行くには、会議場へ片側一車線の道路を渡る必要がありました。信号ひとつなく、毎日ヒヤヒヤの横断となりました。その上その主玄関は、車での来場を前提としているためか2階にあり、ACA出席者は皆この自動車と一体空間の大スケールのスロープを文句も言わずに毎日上下しました。このように建物に入り込んだ車寄せには、十分な排気設備が欲しいと感じました。
 ホテル客室で驚いたことは、客室扉の避難口表示が実際の向きと逆向きとなっていたことです。事前に確認していなければ、自分の位置を誤るところです。対面する客室の全てのサインを共通化していると推察できました。そのような観点で地下鉄に乗ると扉上の行先表示は進行方向と逆に進んでいます。車輛の右も左も同じ表示図を使っています。空港では、自分が利用するゲートまでの距離が知りたくて平面図の案内を探しましたが、なかなか見つからずに、挙句の果てに設置向きを考慮しないサインを見つけ、利用する者への配慮が日本とは異なるものだと痛感しました。


写真1 大会会場の分解模型

写真2 利用者の多い2階デッキ

 建築作品では、ザハ・ハディド設計の香港理工大学イノベーションセンター、ダニエル・リベスキンド設計の香港市立大学クリエイティブメディアセンターに会議の合間に足をのばしました。ザハ作品は、用途は異なりますが8月の北京で見た望京SOHO、銀河SOHOとの共通点がうかがえ、用途にかかわらず自身の形態を追求していると感じました。低層部用の吹き抜け、高層部用の吹き抜けを備え上下空間の連携を目指していますが、日常使用が想定される階段はすれ違うのには狭く、実用性に欠けていないかと心配になりました。使いにくい校舎は学生に愛されず火をつけられてしまう実例もあると、学生時代に恩師から聞いたことを思い出します。キャンパスの一番奥の立地であり、その他のアースカラーで調和した建物群との異彩の放ち方が飛び抜けて感じられます。リベスキンド作品も白色主体でトーンや歪み具合は似ていますが、尖っています。竣工後の年月のせいか、屋根状の外壁がかなり汚れています。吹き抜けを用いて積層する内部空間の連携を高めようとした点は、ザハの作品に似ています。


写真3 Zハディド・香港理工大学

写真4 Dリベスキンド・香港市立大学

 ノーマン・フォスター設計の国際空港ターミナルは大空間を連続アーチで覆い、どうしても目の行く天井の構造体と仕上の調和が美しく、自然光も無理なく取り込まれ、自分の居場所が屋根形状からとてもわかりやすく、香港の玄関にふさわしい落ち着きも感じさせてくれました。この空港から香港島の香港駅まではヨーロッパの技術によるエアポートエクスプレスを利用しましたが、快適な車内に加え2つ驚くことがありました。1つ目は空港からのスムーズな乗車。入国手続きを経てサイン通りに歩いてくると正面に壁が立ちふさがっています。ここからの案内が消えているので列車にどこから乗るか尋ねると、正面の壁がホームドアとなっていて、列車が横付けされました。LRT並みの究極のバリアフリーと感じました。既存の街の中心では不可能なことです。2つ目は、帰りの香港駅でのチェックインです。空港で並ぶ必要もなく荷物を預けられ、自由の身となり、揚々と列車に乗り込みました。


写真5 Nフォスター・国際空港

写真6 フェデラルクルーズバンケットセンター

 旧啓徳空港跡地に建つフェデラルクルーズバンケットセンターは29日のアルカシア賞授賞式で訪れました。横付けされる客船の形状に呼応するような長細いシェイプと正面のダイナミックなアーチ。周辺では複数のホテル、集合住宅が建設を待っていると聞きました。当地のビルすれすれにカーブしながら着陸したという名物空港の名残はないか、廻りを見回しました。周囲の高層ビルに混じって、低層の外壁面にスケールアウトした文字の跡を見つけ、離着陸する航空機に向けたサインだと納得しました。後で調べると、滑走路のサイン保存や紙飛行機のオブジェがあるようで、目撃できなかったことが残念でした。島に戻るスターフェリーでは、本土、島の両方のネオンを鑑賞することができました。日本の夜景との違いは、光の強烈な色彩と外壁を縁取る光に動きがあることです。かのI.M.ペイの中国銀行も三角形の縁取りを光線が走り回っていました。
 帰りの空港に向かうエアポートエクスプレスの車窓からは、新たに整備されている集合住宅の規模や集密具合に驚かされます。車内では驚きのネガティブポイント、車中飲食禁止との明示。実際にはコーヒーとサンドウィッチを持ち込んで食べてしまった後に気づきましたが。
 乱暴ながら少し前に訪れた北京と比較すると、いくつかの相違点がありました。関わりのあった施設だけの比較のため、相当限られてはいますが、仮設足場が北京ではスチール、香港では竹でした。ブレースの入れ方は全く同じに見えるのに対し、材料だけが見事に置換。主な施設のみですがトイレの温水洗浄便座は、香港では皆無、北京ではシャワー型が多く見受けられ、これらはまさに発展中であることを実感させられました。


写真7 フェリーから本土側の夜景

写真8 規模、密度に驚かされる新興住宅

 色彩については相当気にかかりました。全体に霞がかかり景観に色彩のメリハリが少ないと感じたのは、出国前の期待が大きかったからだけではないと思われます。晴れた日でも海の色がくすんでいるように感じ、中国本土のPM2.5の影響との現地担当者の話がありました。むしろ雨天の方がクリアに感じられ、周囲に話を聞くと、やはり雨上がりが最もクリアに見えるとのことでした。移動中の交通機関でも清掃の行き届かないガラス越しでその思いは強まりました。そのせいなのか国民性なのか、外壁などに使用される色彩が日本よりも強いと思われます。街並みを眺めると、住宅の外壁から突き出すように干された洗濯物は多くはないが見ることはできました。集合住宅は、日本のようにバルコニーありきではなく、窓が外に面しています。現地の方に聞き、バルコニー付きの住宅もあることはあるが、同じ面積ならバルコニーとしてではなく、室として活用できる住宅を買うと聞き、その需要に応じてか、バルコニーのない住宅比率がかなり多く感じられました。香港も観光資源開発でしょうか、次週にフォーミュラE選手権が予定されているようで、仮設観客席が公道に向けて設置されていました。
 東京に帰国後、晴れた日に色彩がくっきり見えることに喜びを覚えました。2年後日本で開催されるACA18は、香港よりも街中の移動が多くなるでしょう。ふらっと寄り道がしたくなるように、そしてまた訪れたいと思っていただけるように、街並みを少しでも整えてアジアの方々をお迎えしたいと思います。

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