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報告

JIAトーク2017 『美術館のコレクションをそだてる』(講師:国立西洋美術館 主任研究員・川瀬佑介氏)

報 告REPORT

JIAトークレポート JIAトーク実行委員 加藤研介

「コレクションの隙間に新たな息吹を」

 

JIAトーク2017 第4回

講師:川瀬佑介氏(国立西洋美術館主任研究員)

日程:2018年3月7日(水)

場所:建築家会館本館1階ホール

 

「美術館のコレクションをそだてる」と題して、国立西洋美術館主任研究員の川瀬佑介氏を講師としてお招きし、いわば美術館の舞台裏の一つとも言える、コレクションの収集活動について語って頂いた。そのJIAトークは2017年度の第4回目として開催された。尚、1976年に始まったJIAトークは、今回で通算170回目を迎えた。

普通に美術館に行き美術を鑑賞するだけでは決して窺い知ることが難しい、その美術作品はどうして、どのようにして、集めてきたのか、その収集活動の一端を聞けることに興味を抱いた多くの人が集まった。

親しみ深く、理解するに容易な言葉で軽妙に語られる川瀬氏の講演を聞き進めていくに連れ、美術作品の収集活動がいかに重要な活動なのかに気付かされていく。トークの中では、そのヴィジョンはもとより、作品購入にあたっての予算や、実際に掛かった費用などの具体的数値も上がった。その講演の模様の一部を紹介したい。

講演の冒頭では、西洋美術館の紹介や、美術館の目的、海外と日本の美術館の比較など、親しみやすい話から始まると同時に、さっそくその目的の一つである収集活動に焦点が当てられていく。開館から60年、継続的な収集活動をおこなってきた美術館は日本では比較的稀なケースという。

国立西洋美術館の収蔵品のもとは松方幸次郎のプライベートコレクションであること、そしてル・コルビュジェによって設計されたことに触れながら、その継続的な収集活動によって、19世紀後半の印象派を中心としたコレクション、およびフランス革命以前のオールドマスターコレクション、これら2つの柱、両者ともに見るべきものを多く備えているということが、西美(国立西洋美術館)の大きな特徴であるということが説明された。これらが共に充実することによって、美術を通して大きな歴史のスパンを見せることができるのだ。

また、美術展示というと油彩の絵画、と捉えられがちであるが、他分野の彫刻や素描、そして版画の長所短所にも触れ、展示に際しての現実的な側面から、版画の充実が美術館の基礎体力づくりに繋がり、版画を多く収集することによって、例えばルネッサンスは何なのか、といった大きなテーマを伝えることができる、と川瀬さんは説く。

講演では更に、当時の松方の美術品の集め方と、この60年間の西美のコレクションのやり方の違いに触れていき、次第に「コレクションのそだてかた」というタイトルの核心に迫っていく。

松方は当時、日本に居ながらにして西洋美術を見ることができるようにするべく、その大きな社会的意義のために、美術品を短期間で一気に収集した。西洋美術館に残されたコレクションはその一部でしかなかったため、その集まった作品には質の偏り、はたまたマネやシスレーの作品が1つもないなど、画家の偏りがあった。

たとえば開館当初から、モネの作品は比較的多かった。しかし当然体系的、網羅的ではなかった。そこで、作品の充実、網羅を図るには購入、寄贈、寄託の方法があるが、美術館の所蔵となるには、購入、寄贈しかなく、更に美術館が目指す作品収集をするには、購入しかない。そこで、購入にあたっては西美ではヴィジョン、ポリシーを持ってその任務にあたっている。ヴィジョンを持って美術作品の拡充を図ることがとても重要なのである。

いくつか重要なポリシーの中、「To fiil in the gap=隙間を埋める」というポリシーを持つ(川瀬氏配布資料による)西美の収集に関する明文化された中期計画に合致するかどうか、また既存のコレクションとの連関性を考慮しつつ、そこに足りない何を補うか考えていく。コレクションの隙間を見つけ、そこに新たな息吹を与えていくのだ。

関連が乏しいものを購入することも、gapを埋めることになり得るし、美術品拡充のきっかけともなり得るため、時に重要なこともあるが、実際の展示の流れや、西美の展示スペースの関係から難しいこと、それは例えば、デンマークの画家ヴィルヘルム・ハンマースホイの絵画作品1点を飾るに適した壁の存在の話などを交え、コレクションのそだてかたに関する分かりやすい解説がなされた。

講演では引き続き、西美が購入してきたコレクションの内、数点を具体的に挙げ、いかに体系、網羅を図るべく収集してきたかの説明が続いていった。モーリス・ドニの作品は松方コレクションに当初からあったが、それらは晩年の作品であった。ドニは実は初期のころの作品で有名となったが、西美にはその頃の作品はなかった。そこで1986年に、モーリス・ドニの1890年に描かれた作品を購入した。gapを埋めた例である。

1990年代に初めて17世紀イタリア絵画を購入したことや、北方絵画の充実にも触れ、それらのことは西美にとっての転換でもあり、コレクションが充実してきたことの証でもあった。

2011年から特別購入予算がついたことにも話が及んだ。収集活動をしている国立美術館は日本で4館あるが、4館合計でつく年間27億円の中で、必要に応じた金額で購入されたアンドレア・デル・サルト『聖母子』や、エヴァリスト・バスケニス『楽器のある静物』、エドガー・ドガ『舞台袖の3人の踊り子』(購入年はそれぞれ異なる)等が紹介され、その購入の実際の話に講演は進んでいった。

購入にあたっては具体的な金額の問題もあるので、当然シビアにその購入の是非の検討がおこなわれている。そんな西美の具体的な購入までの流れやその検討基準も紹介された。

川瀬氏の講演の中で印象に残る言葉として、「言葉は悪いかも知れないが、、」という前置きがなされた後、「レンブラントのような一流の作家の、何億円かで買えるいわゆる二流の作品を購入した方が良いのか、それとも、二流の作家の一流の作品を収集、そして展示する方が、どちらが国民の財産として資するものがあるのか、よく検討しなければならない」というのは、とても興味深かった。

質疑応答も活発におこなわれ、また会場に寄せられたアンケートでは、「舞台裏が聞けて良かった」、「興味深い内容をわかりやすく聞けた」、「お金のことなど馴染みのある観点から解説してくれて面白かった」などの感想が多く、今回のテーマへの関心の高さ、また話を聞いた上での理解度の高さがうかがえた。

国立西洋美術館がコレクションをどのようにしてその拡充を図ってきたか、つまり「コレクションのそだてかた」が川瀬氏の講演を通じて焦点が当てられた。そのことは、美術館を訪れる人々がそこにある美術品をただ鑑賞するのみならず、より大きな視点で、かつ体系的に美術全体を俯瞰できるよう、そんな大変重要なきっかけを与えてくれたのではないかと思う。

(本記事の写真は、蔵プロダクション撮影)

概 要OUTLINE

年4回開催しております「JIAトーク」の2017年度、第4回目として、国立西洋美術館主任研究員の川瀬佑介氏をお招きして、「美術館のコレクションをそだてる」をテーマにお話をお聞きします。入場無料で、どなたでも参加できますので、お誘い合わせの上、奮って、ご参加ください。

 

詳細情報DETAIL

開催日
2018年3月7日(水)
時 間
18:30-20:30
会 場

建築家会館1階ホール
東京都渋谷区神宮前2-3-16

交通案内

東京メトロ銀座線外苑前駅3番出口より徒歩約8分

講 師
川瀬佑介氏(国立西洋美術館主任研究員)
参加対象者
どなたでも参加できます
(会場の準備の都合上、事前申込をお願いします)
参加費
無料
定 員
100名(定員を超える場合はご連絡いたします)
CPD
2単位申請予定
問合せ先
JIA関東甲信越支部事務局 担当:菊地(TEL:03-3408-8291)
申込方法

参加希望の方は、催し名、氏名、所属先名、連絡先TEL、メールアドレスを明記のうえ、メール(talk@jia.or.jp)又は、FAX(03-3408-8294)にてお申込みください。
※CPD単位取得希望の方は、CPD番号も明記ください。
※定員を超える場合以外は、受付等のご連絡はいたしませんので、当日は時間までに会場にお越しください。

案内図
案内図
主 催
JIA関東甲信越支部 JIAトーク実行委員会
協 賛
日新工業株式会社、日本アスファルト防水工業協同組合