都市デザインの話
この12年間で近代建築の現存率32%
        せたがや街並み保存・再生の会


(株)幹設計 所長  澤 一 郎


 祖父の時代から住んでいたこの街で,私も住んで半世紀が過ぎて,気が付くと周辺に当時のまちなみが何も残っていない。確かに世田谷の弦巻は区の中心にあって交通の不便な所で,都心に出るのに50分程度かかっていたのが,今では道路の整備・交通機関の発展により僅か15分で出る便利さによって,まちなみが急激に変化していく。

 毎日通う桜新町駅近くは,大正時代に約20数ヘクタールの雑木林を宅地造成し,世田谷区で企業による大規模な宅地開発の最初のもので,「郊外分譲地の理想郷」と呼ばれ,造成時に植樹された桜並木が地名にもなっている,このような歴史の中で親しんできた桜の樹が,マンションの工事のため障害になるので,一瞬にして数本の立派な桜の樹が伐採された,特にこの十数年の間のデジタル的変化に麻痺している。

 そんなことを感じている時に,世田谷近代建築に関心のある20数人の市民が集まり「せたがや街並み保存・再生の会」の立ち上げに参加することになり,メンバーの多くは世田谷区在住者で,学生,主婦,医療関係,ジャーナリスト,都市計画,建築専門家など,年齢層も20代〜60代と幅広く,月二回の活動で勉強会と現地調査をやることで,先ず最初に1987年世田谷区教育委員会調査報告書による,明治・大正・昭和初期に建築された1754棟の近代住宅を手掛りに,十年を経過した追跡調査を各会員の地域分担で行なった結果,現存は563棟,現存率32%であることがわかった。

 いかに近代建築を残すのが難しいかということが,十分理解できた。これからは,近代建築とその周辺環境である街並の定点観測を継続しながら,近代建築の所有者の相談窓口になったり,単体だけでなく周辺環境の保存,再生活用ということで古いものと,新しいものが連続性のなかで周辺環境の良いストックとして残す考えを広めていきたい。それには,23区で最も広い地区面積58平方キロメートル,人口77万人の住宅を占める街並みとしては地域区民が少しでも多く参加して体験出来るようにしたい。当会も今年12月で丁度2年になる。成城駅近くの総合支所で12月の2日間の日程で発表展示会を行なう。

 当会もまだ設立したばかりで,これから時間をかけて,近代建築のまだまだ再生して利用出来るものをピックアップして行きたいし,ランドマークとして残しておきたいものがあるが,実態は時間的に危機を観じている,地域活動をしているこのような会に是非,JIAも支援してほしい。

 住宅地図と調査リストとカメラを持って,3人一組で, 一回が7キロ位歩いて追跡調査をするようになって感じたのは,昔と違って街並みの連続性がなく,街角の風景が楽しくないのに気が付く。しかし世田谷にはまだまだ再生すれば素晴らしい風景に成るものがある,是非,この会に参加したい方は連絡下さい。

 

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