3.水圧式エレベーター
『SPEC ECO』これまで記述しました既設駅舎のタイプ、それに伴うエレベーターに関する問題点に対応するために、日本オーチスでは、これらの駅舎向けエレベーターとして水圧式エレベーター『SPEC ECO(スペック エコ)』を開発しました。
(1)水圧式エレベータとは?
 『SPEC ECO』とは、一言で言うと「水圧式機械室レスエレベーター」であり、従来の油圧式エレベーターと同等のシステムを持った機械室レスエレベーターとして、ホームエレベーターを除けば業界初の画期的なエレベーターと言えます。「水圧式」と言うのは、従来油圧式エレベーターで使用していた石油系鉱物油の代わりに水系作動液(水・グリコール作動液)を使用していることであり、石油系鉱物油と異なり引火、燃焼はせず、消防法における危険物に該当しないため、従来必要であった機械室(または昇降路)の消火設備の設置が不要となります。(図3−1)
 駆動方式は、かごに水圧ジャッキのプランジャーが直接結合され、水圧の駆動がかごに伝達される直接式となっています。直接式の場合、一般的にはピットにたて穴を掘りジャッキを埋設するのですが、この『SPEC ECO』はピット床面にシリンダーを配置するホールレス式(3段テレスコーピック型)となっています。よって旅客の往来が激しい駅舎においても、非常に安全でかつスムーズな乗降が実現できるエレベーターとなっています。(図3−2)
(2)水圧式エレベータとは?
 既設駅舎にエレベーターを設置する場合、そのピットをあまり深く出来ないと言う問題がありましたが、この『SPEC ECO』では、ピット深さ150mmを実現して、この問題を解決しています。
 水圧ジャッキ内に油入式緩衝器と同等の性能を有する緩衝器をシリンダーに組込む構造(シリンダー一体型緩衝器)としているため、従来のようにかご下部に緩衝器を設置しないためピット深さを小さくすることが可能となりました。また、かごは片持ち式の構造で、かご側部または後部に設置されたプランジャーがかご上枠を押上げる構造となっており、よってかご下枠側に床材以外の構造フレームがないため、これによってもピット寸法の縮小を実現しています。
 この『SPECECO』では、ピットの掘削が少なくて済むだけでなく、高さ150mmのスロープを設けるのであれば、既設の床面に直接設置することも可能となります。(但し、床面にはシリンダー部分の荷重を受けるための構造スラブが必要となります。)また、ピットが浅いのと同時に緩衝器がシリンダー内にあり、かご下部には荷重が掛からないため、シリンダー部分を厚壁にするか荷重に耐える構造梁を配置すれば、ピット下部を使用する場合に非常に安全であるといえるでしょう。(但し、ピット下部使用については管轄の特定行政庁に、その可否についてご確認下さい。)

(3)多彩なバリエーション
 これも先に記述しましたが、コンコースとプラットホームの位置関係により「貫通式出入口」や「直角二方向出入口」のエレベーターを要求される場合が多いですが、この『SPEC ECO』では、貫通式出入口3種、直角二方向出入口1種のバリエーションがあり、その設置条件に応じて選択出来ます。また、かご内で車いすが回転できるタイプでは、「一方向出入口」の機種も選択出来ます。(図3−3)
 さらにかご上枠をプランジャーが押上げる構造とし、昇降行程に対してジャッキの長さを短くする等速多段シリンダー式ジャッキを採用することにより、オーバーヘッド部の寸法の縮小を実現し、「かご縦長タイプ」では、昇降路間口寸法(鉄塔一体型鉄塔外法)を2m以下にする等、よりコンパクトなエレベーターが要求される既設駅舎のリニューアルにおいて、この水圧式エレベーター『SPEC ECO』は、非常に有効かつ最適なエレベーターシステムであると思います。