JIA Bulletin 2015年9月号/海外レポート

スリランカ/建築家ジェフリー・バワを巡る旅

米澤 正己

JIA 四国支部 徳島地域会
清水 裕且


 2015 年ゴールデンウィークに念願の『スリランカ/ 建築家ジェフリー・バワを巡る旅』に出ることができた。その中のいくつかをピックアップしてレポートしたいと思う。

 

■カンダラマ・ホテル
 オープンエアのエントランスホールに降り立った時、「内にいるのか外にいるのか」何とも不思議な感覚を覚えた。と同時に体中から感動がわき起こった。目前の湖に光を落とす美しい月がこの旅の成功を約束してくれたようだった。
 各部屋をつなぐオープンエアの廊下は必要以上に広く、所々にアート作品やイスが配置されている。これは単なる通路としてではなく、自然と建築との緩衝帯としての役目を果たしていた。部屋に入り、目覚めを楽しもうということでカーテンを全開にして就寝。
 翌朝、鳥(いや猿?)の鳴き声で目が覚め、カーテンを開け放した窓の外に目をやると網膜が緑に染められた。ガラス張りの浴室は森の中で水を浴びているようで本当に気持ちよかった!それと外から猿に見られているので、ベラスケスの絵画「ラス・メニーナス」を観ているような感覚になった。
 「建築は外から見るのではなく、建築から外を見る。」というバワの思想通り、この建築を外から見ると緑に覆われ、存在が見事に消えている。そして水平・垂直で構成された単純な構造フレームは風景を切り取る額縁となる。逆説的かもしれないが、建築を存在させないことによって、建築の本質とは何かを考えさせられた。建築とは空間(Void)であると教えられた。

 

緑に覆われた外観

 

■ラキ氏に会う
 バワの右腕であり芸術家のラキ・セナナヤキ氏のお話を聞くことができた。以前よりバワとルイス・バラガンの類似性を感じていたのでそのことを質問してみた。やはり、バワの折衷主義デザインにバラガンも一役担っていたことが確かめられた。

 

■バワの理想郷 ルヌガンガ
  森の中に迷い込むように入って来た広大な敷地には、バワが生涯を通じて情熱を注いできたランドスケープと建築郡が繰り広げられていた。変化に富む地形を生かして配置、デザインされている建築群のひとつひとつにバワの建築的な試みが刻まれていた。ランドスケープの変化点として作用するゲートハウス。屋根の操作で開放感と落ち着きを併存させている宙に浮いたグラスハウス。中二階とその下のサンルームがワンルーム空間にアクセントを与えているガーデンハウス。斜面に沿った段上の空間が絶妙のプロポーションであるギャラリーハウス。木が植えられた半屋外のバスルームがある離れ的なシナモンハウス。最も高い位置にありルヌガンガ全体のLDK みたいな場所で、湖が見渡せる半屋外のリビングが時を忘れさせるゲストハウス。
 バワが色々な宝物をそこかしこに置いていってくれているような感じがあって、もっとゆっくりここで過ごしてみたいと思った。「まだまだ見つかっていない宝物があるから、また来いよ。」と言われた気がした。

 

ゲストハウスからの眺め ギャラリーハウス


ゲートハウス グラスハウス

 

■ライトハウス・ホテル
 戦士の手摺がある階段(ここは洞窟のような閉鎖的空間であるが、照明と手摺によってひとつのアート空間のようになっている!)を上るとインド洋がパノラマに広がるロビー空間に出る。この空間演出に声が出ない者はいないであろう。暗くて閉鎖的な空間から明るく開放的な空間へ導く手法をバワはよく使っているが、ここがいちばんドラマティックになっている気がした。

 

ロビー空間からインド洋を見る

 

■ブルーウォーター・ホテル
 オープンエアのホール内に並ぶ白い列柱と直線的な水路に導かれてプール、インド洋へと。水を使って空間を同化させインフィニティーを感じさせると同時に海の水とピロティー内に導いた水を異化させ「静と動」を感じさせる。至ってシンプルな構造と平面プランがつくり出す水の宮殿はバワが設計した最後のホテルである。バワが求めたという「静謐」はここに来ると体感できる。

 

エントランスロビーからインド洋を見る

 

■バワ自邸 Number11
 ガレージの木製扉から迷路のような内部空間へと誘導された。三面を真っ白に塗られた廊下は抽象性を備え、特に光庭のシンボリックな木柱が光沢仕上げされた床に映る影がなんとも美しい。明暗を繰り返しながら奥へ奥へと展開する空間構成は伝統的な日本建築とよく似ていて、文字通り「奥ゆかしい」。奥へ向かう時は内部にいながらアイキャッチとなるところはいつも屋外空間であることに気づいた。そのことがより一層、明暗のシークエンスや内外の曖昧性を際立たせている。そんな空間構成の中に配置されているアートやインテリアが調和することによって、バワの美の世界が鎮座している。
 「バワの住宅は、私が体験した最も美しいものだ。そこにあるすべてのものがニュアンスを持っている」と建築家チャールズ・コレア が賛辞を捧げたらしいが、この“ ニュアンス”というワードの意味がよく理解できた。
 とにかくここにはたくさんの「場面」が用意されている。その「場面」の数だけ溜め息が出るに違いない。

 

メイン廊下の奥にある光庭がアイキャッチ 光庭のシンボリックな木柱

■バワの設計哲学
 こうしてバワの代表作に足を踏み入れてきたが、どこに行っても強烈にバワの声が聞こえてくる。
「建築は語るものではない。体験するものである。」

 

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