JIA Bulletin 2012年3月号/海外レポート
虹プロジェクト
―ケニアと日本に虹を架けよう―

  坂田 泉 ディック・オランゴ
JIA 国際委員
坂田 泉
ディック・オランゴ

■私たちの信條
人と人との「間」には、無限の可能性があります。国と国の「間」も同じです。しかし、現実には、人と人、国と国との「間」には様々な障害があり、豊かな可能性に満ちた「交わり」を妨げています。
私たち―ケニア人建築家、ディック・オランゴと日本人建築家、坂田 泉―は、ケニアと日本というふたつの国で生まれたふたりの建築家によるユニットです。そして、その職能を通じて、ケニアと日本の「間」をより豊かにし、様々な人々による、様々な「交わり」を生み出そうと願い、プロジェクトを立ち上げました。それは、ケニアと日本の「間」に、彩り豊かな虹を架けることに似ています。そこで、私たちは、このプロジェクトを
「虹プロジェクト」と名づけました。
私たちのプロジェクトは、「慈善行為」でも「援助」でもありません。私たちの「間」には、「助ける―助けられる」という構図はありません。そうではなくて、ふたつの国と国の「間」の豊かな「交わり」を通じて、互いの「力」を見つけ、互いの「力」を合わせて、私たちの「間」に何かかけがえのないものを生み出してゆくこと。それが虹プロジェクトの目指すところです。

 

写真

 

■ OSAジャパンの設立
2011年1月、私たちは、虹プロジェクトの日本における活動拠点として、一般社団法人OSAジャパンを設立しました。
OSAは、「Olango and Sakata Associates」の略称です。会長は坂田 泉、顧問がディック・オランゴという形でスタートし、その後、2011年5月には、ケニア人エコノミスト、エマニュエル・ムティシヤ(国連大学研究員)をチーフエコノミストとして迎え入れました。
虹プロジェクトは2012年、ケニアにおける活動拠点「OSAケニア」を設立し、文字通り、ケニアと日本を結ぶプロジェクトとなります。

 

■ケニアと日本を結ぶ技術の架け橋
虹プロジェクトは、ケニアの持つ潜在的な力を実現するために日本の技術力を活かす、という理念の下、ケニアと日本の技術協力のコーディネーションを進めています。
「てるてる坊主」をモデルに私たちの役割を説明します。てるてる坊主は小さな頭と広い裾野を持っています。私たちも小さな集団ですが、ケニアに広いネットワークを持っています。そのネットワークを活かし、私たちは、ケニアにほとんどコネクションも情報も持たない日本の企業に対し、可能なかぎり広い範囲からプロジェクトにふさわしい現地のパートナーを探し、互いに結びつける。これが「てるてる坊主モデル」です。
私たちが日本企業の協力相手として対象とする組織は、企業に留まらず、大学、NGO、政府関係機関、国際機関など広範に渡ることを特色としています。そこに形成される協力関係はケニア社会にとって幅広い利益を創出するものとなるため、現地側にしっかりとサポートされ、その結果として、真に競争力と持続性のある事業展開が可能になり、日本企業にとっても好ましい展望を約束するものであると信じます。

 

■ソーラシートプロジェクト
現在、虹プロジェクトが進めているケニアと日本の技術協力の例として、「ソーラーシートプロジェクト」を紹介します。古来、多くの人的資源、天然資源を奪取されてきたアフリカにおいて、太陽光だけは誰にも奪うことのできない、無尽蔵のエネルギーです。ケニアではインフラの整っていない無電化地域も多く、地産地消型の太陽光発電は、これからのエネルギー源として高い妥当性とニーズがあります。虹プロジェクトでは、この貴重な財産を有効に活かすために、日本の優れたソーラー技術を役立てることを目指しています。
日本の多くのソーラー技術の中で、私たちが着目しているのが、「薄膜系アモルファス太陽電池」(以下、「ソーラーシート」)です。ソーラーシートは、従来のガラスタイプの太陽電池にはない、「薄い・軽い・柔らかい」という特性を有しています。
この特性を活かせば、例えば、ケニア村落部の簡易な建造物や伝統的建造物にも太陽電池を取り付けられます。また、ソーラーシートは屋根材や外壁材と一体化が可能なので、従来の太陽電池とは異なり、建築デザインと調和のとれた設置が可能です。要するに、ソーラーシートは、景観やデザインの美しさと太陽光発電の両立を可能にする優れた素材なのです。


写真 
ソーラーシート(富士電機のカタログから)

写真
ソーラーシートによるグリーン・ビレッジ

写真
ソーラーシートによるグリーン・シティ

 

その一方、ソーラーシートは、その特性を活かした様々な日常用途のプロダクトへの応用も可能です。私たちが進めているのは、携帯電話の充電用シートです。すなわち、軽く、簡単に持ち運べ、落としても割れることのないシート状のバッテリーチャージャーです。
「ソーラーシートプロジェクト」は、上記のような日常用途の製品と、より大規模な建築への応用という、二つのスケールの異なる展開を通じて、ソーラーシートをケニアに普及させることを目指しています。

 

■日本の卵をケニアでゆでる
「 ソーラーシートプロジェクト」において私たちが原則としているのは、「日本の卵をケニアでゆでる」というルールです。
今までの途上国ビジネスでは、例えば、日本の卵を中国で安くゆで、ケニアで売るというのが通常でした。ソーラーシートも中国で安く製品化し、ケニアで売るということも考えられますが、私たちはそういう方法は採用しません。
虹プロジェクトでは、日本で生まれた半製品をケニアで製品化することを目指します。具体的には、ソーラーシートに内蔵されるフィルム状の太陽電池セルをケニアに輸入し、それを現地でラミネート加工しソーラーシートとして完成させます。そうすることによって、ケニアにも新たな技術と雇用、そして何よりも、自分たちで製品にしたという達成感を与え、日本とケニアの双方にとってWIN-WIN関係を構築できるからです。

写真
日本とケニアが力を合わせるビジネスモデル

 
■プロジェクト始動
2011年11月、ソーラーシートプロジェクトの実現に向け、私たちは、ケニア視察を実施しました。まず、ソーラーシートの建築への応用を共に開発するパートナーとして、坂田がかつてJICA(国際協力機構)派遣専門家として建築教育に従事したジョモ・ケニヤッタ農工大学、また、ナイロビ大学を訪問しました。また、ソーラーシートの製作を担う民間企業、また、普及の協力者として、関係省庁(エネルギー省、電力省)などの要人とも会い、今後のパートナーシップの構築を図りました。
成果は期待以上で、今後の展開が楽しみです。当面は、携帯電話の充電用シートから着手し、現在、サンプルモデルを製作中です。また次の機会に、その進捗をお知らせしたいと思います。

 

 

〈一般社団法人OSA ジャパン〉


海外レポート 一覧へ