JIA Bulletin 2012年1月号/海外レポート

2011 年9 月 ラファエル ヴィニョーリの傍で見た東京

 

上浪 寛
豊田 慧

 

  今年9 月、現在勤務しているRafaelVinolyArchitectsPc の社長Rafael Vinoly が、UIA のオープニングセレモニーに招待され、私も同行することになり、Vinoly との滞在中の体験について少し御紹介します。東京国際フォーラムの設計者であるVinoly にとって東京国際フォーラムはオープン以来、15 年振り。ここ数年、日本へ戻って見たいという思いはあったものの多忙のためなかなかチャンスがなく、今回のUIA に招待されたことにより、ようやく実現することができた。直前に、イギリスのコルチェスターで完成したばかりのプロジェクトのオープニングに参加したため、日本には UIA のオープニングセレモニーの当日朝5時着。東京の後は直接カタールのドーハへ向かうという強行日程ではあったが、Vinoly は日本に来ることをとても楽しみにしていて、 日本滞在中は終始興奮していた。

 

写真

イギリス、コルチェスターに完成した ”FirstSite”(courtesy Rafael Vinoly Architects, copyright Will Pryce)

写真

イギリス、コルチェスターに完成した
”FirstSite” のヴィニョーリのコンセプトスケッチ

 

  9月26日、UIAのオープニングセレモニー当日、ロンドンからの直通便で羽田に着いた彼はひとまずホテルへ向かい、リフレッシュ。8時ごろ、私は彼のホテルで合流。9時に東京国際フォーラムで東京事務所所長をされていた佐藤尚巳さんが迎えに到着、3人でフォーラムへ向かう。ロビーにて槙文彦先生に会い、挨拶。オープニングセレモニーが行われるホールAへ向かう間も、知り合いに会い、挨拶をしていく。セレモニーの後、VIPは別の会場へ移動して、天皇両陛下とのご挨拶。両陛下が一人ひとりと丁寧に挨拶をされている間、私は近くにいた方々と話をさせてもらう。午後、打ち合わせの合間に、Vinolyと共にフォーラム内を見て回る。歩きながら設計者のVinolyが、それぞれの部分のデザイン課程やエピソードなどを話してくれて、とても贅沢なツアーをしている気分だった。夜には、東京国際フォーラムに関わった人達が、椎名政夫さんの呼びかけにより集まり、15年振りの同窓会をフォーラム7階のレストランのテラスで行われた。建築家、構造技術者、施工者、そして東京都から。予想していたよりはるかに多くの方々が集まり、久しぶりの再会であった。そしてみんなが元気にそれぞれの分野で活躍されていることにVinolyは感動しきりであった。彼は何度も「とにかく、一緒に仕事をした仲間がよかったから、これだけ良い仕事ができたのだ。」と繰り返し言っていた。そして、フォーラムが本当にきれいな状態に保たれていることに感銘をうけていた。私は、東京国際フォーラムに関わったわけではないが、日本にいたときから興味を持っていたプロジェクトに直接携わった方々と、会って話をさせていただいことが、とても実りのある経験となった。


写真 写真
記事で触れている東京国際フォーラムに関わった方々との同窓会の時の写真

 

 東京滞在二日目、午前中はまたフォーラム内を見て回り、UIAのエキシビジョンを見学したり、レクチャーなどに顔を出しながら時間を過ごす。また、フォーラムの周辺もずいぶんと様変わりし、不景気を感じさせない活気に溢れていることに少し驚く。お昼は槙文彦先生の呼びかけで、谷口吉生先生、坂茂先生などを含む10数人の建築家や建築に関わる方々が集まった。そこで、また久しぶりに会った知人と、最近の日本の建築業界動向、これからの建築業界などについての話に盛り上がる。食後、少し時間が空いたときを利用し、槙先生の薦めで、六本木ヒルズで行われていた、Metabolism,The City Of The Future を見学。そして展望台から東京の街なりを眺める。東京が一望でき、ここ15年でどれだけ街が変わったのかを目の当たりにする。六本木ヒルズも東京ミッドタウンも15年前にはなかったので、彼の記憶する六本木からはずいぶんと印象が変わっていたようだ。その後、現在の東京フォーラムのチェアマンにお会いし、どれだけ東京フォーラムが頻繁に国内外のいろいろなイベントに使われているか、どのようなメインテナンスを行っているか、そして、これから東京フォーラムが、東京の街の中でどのような機能を果たし、街の活性化にどのように貢献できるかなどの意見を交換した。夕方には、青山のJIA建築家クラブで、RafaelVinolyArchitectsPCの過去10〜15年のプロジェクトについてプライベートトーク。私も未熟ながら彼のプライベートトークを日本語に通訳させてもらう。最後の質疑では、日本での仕事は海外の仕事とどう違うかなどの話もした。私は、アメリカの大学で建築を学び、会社でも英語なので、日本語での建築用語をほとんど知らず、とても未熟な通訳になってしまったことを残念に思っている。自分の携わっている業界のことを、もっと自分の母国語でも学ばなければと実感した。  

写真
東京国際フォーラム、ガラスホールでのVinoly

写真
JIA でのプライベートトーク

 
 東京滞在最終日、いくつかの打ち合わせの合間、表参道へ向かう。ここ10〜15年の間に世界中の著名な建築家の建てた作品を見学。当時からの街並みの変化にVinolyは驚くと同時に、ひさしぶりの欅通りの散歩を懐かしんでいた。UIAオープニングセレモニーでご一緒させていたただいた三宅一生さんが、東京ミッドタウンにある安藤先生設計の美術館で展示をされてるので是非と勧められ、そこにも立ち寄る。斬新なデザイン、そして創作過程の想像力あふれるスケッチなどが興味深かった。夕方、まだいくつか見られていないところもあったが時間が足りず、次の出張の目的地、ドーハへ向かうため、東京駅にてVinolyを見送った。

 最後に、自分のRafaelVinolyArchitectsでの経験について少し。2006年の夏に入社し、2007年夏ごろから、RafaelVinolyと会社にあるほぼすべてのプロジェクトのデザインに関わりはじめる。コンペのプレゼンや、SchematicDesignPhaseやDesignDevelopmentPhaseのプレゼン、デザインワークショップなどで、アメリカ国内、そしてヨーロッパや中東への出張も多く、いろんな地域で、様々な分野のクライアントと接する機会がある。また、Vinolyとそれぞれのプロジェクトチームとの、デザインコミュニケーションに携わることにより、それぞれのプロジェクトを色々な角度から見ることができている。Vinolyが、どのようにコンセプトを練り、どのようにプレゼンし、アイディアを形にしていくのかを、身近に見ることができているのはとても興味深い。これまで出会った方々、また今回日本でお会いした方々と、これから先も様々な形で接する機会が持てたらと願っている。

 現在67歳のVinolyは、今でも夜中、明け方まで仕事をしていることがあり、週に何度も海外出張をすることも多々ある。私は、彼の近くで仕事をする事が多いため、当日に出張を指示されたり、徹夜明けに、そのまま海外へ出張、飛行機の中でも最後の仕上げの作業を続け、時差を超えて働くこともある。そんなときVinolyは私に「Are you tired? You shouldn't be tired because you are still young.(疲れているのか?あなたはまだ若いのだから疲れるべきじゃない) 」と聞いてくる。そんな時、疲れすぎているので答える気力もない。

 

 

■豊田 慧さんプロフィール

1982年 東京都生まれ
2004−05年Syracuse大学在籍中、1年間フィレンツェへ留学、AndreaPonsi事務所でインターン。
また在学中には、曽根幸一環境設計事務所、三井純&アソシエーツ建築設計事務所、SeanJohnsonInteriorDecorationなどでインターン。
2006年 同大学修了、Rafael VinolyArchitectsPC NYオフィス に入社
2007−09年まで同事務所ロンドン支部に所属 現在NYオフィスにて勤務

〈Rafael VinolyArchitectsPC NY オフィス〉


海外レポート 一覧へ