JIA Bulletin 2007年12月号/海外レポート
北欧スウェーデンから何を学ぶか
ストックホルムのハンマルビーが示す住環境
筒井 英雄

筒井 英雄 

40数年前「国際建築」と云う北欧建築を多く紹介する雑誌がありました。私はフィンランドのアアルト、スウェーデンのアスプルンド、デンマークのヤコブセンやウッツォンなどの作品を雑誌の中で見て北欧建築に強い憧れを抱くようになりました。そのような時に、スウェーデンの設計事務所に2年間勤務するようになりました。その頃は今みたいに海外旅行は自由化されておらず、アンカレッジ経由でコペンハーゲンに入り、そこでヤコブセンの建築を始めて見ることが出来ました。吹き抜けの空間にある、家具、照明や木質の内装など暖かい雰囲気に満ちて、何か話しかけて来るような親しみを感じました。


センター通りには店舗、保育園、学校の他の生活関連
施設が 並んでいます

スウェーデン的 建築家とは
 私のストックホルムの事務所B,Engstrand+H,Speekはハウジングと教会の設計が主な仕事でした。仕事が慣れるに従い事務所のボスのエングストランドから、建築家の姿勢について話がありました。その内容は次のようなものです。
「第一に、建築家は良き市民であり、市民から尊敬される言動をすること。第二は、建築家協会の会員として社会に貢献出来るような仕事をすること。第三は、自分の仕事は出来るだけ社会性の強い仕事を選ぶこと」でした。ボスの姿勢は「ハウジングは都市環境を作る外部空間の仕事、教会は光と影の内部空間の仕事」をモットーに、コンペに必ず応募していました。そのような状況の中で一緒に働く友人から、もう一つ大切な条件があると言われました。それは、「ハウジングの仕事が自分の仕事の半分以上」を占めないと本当の建築家と言えないとのことでした。ハウジングは社会性が要求される仕事で、個人の作品でなく市民のための生活環境を創造する仕事だからです。


公園と水路のセンター通りの水路は雨水が利用されています

最近のハウジングの事例
 ストックホルムの中心から路面電車で15分位の位置のハンマルビーにHammarby Sjostadとして、新しいハウジングが進行しています。今回の計画は港湾工場跡地を敷地整備を充分に行ない、未来志向の住環境作り最終居住人口3万人になる予定です。
 この計画の基本は「持続可能なエコロジカルタウン」の建設にあります。計画と設計に10年を要し、建設を区画ごとに行ない15年を要する事業です。中心施設のセンターは3階建てで、地下では住戸からのゴミを地下埋設のチューブで吸引収集され分類されます。         
 燃えるゴミは焼却して熱源にし、地域暖房に利用しています。また生ゴミは搬送してバイオエネルギーに変換して、家庭のガスや車の燃料としています。生活排水までも分類してエネルギー源と綺麗な水にして自然に帰します。  
 その他IT利用の家電製品やカーシェアリングして都市内の車の乗り入れを少なくするなど、多方面にわたる検討がされています。この計画は、1997年度のヨーロッパの都市環境大賞を受賞しています。




ガラスのセンター建物の手前箱はゴミの吸引口です
日本の住環境は
 日本の住環境は、都市計画との関連が不十分であり、個人や民間企業の個人的な考えで建設が進むため計画的な住環境になりません。このような状況を改善して、都市計画に基づいた住環境を創造するには、日本の建築家の強い指導力が求められています。しかし建築家個人の力には限界があり、志を同じくする建築家が連帯することで大きな可能性が生まれると思います。環境問題が社会問題になっている昨今、私はエングストランドの言葉やハンマルビーの計画などを思い出し、これからの住環境のあり方を考えています。

〈幹設計顧問〉

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