都市デザインの話
まちづくりへのコミットメント
        建築家は責任を果たせるか


久間建築設計事務所 主宰  久間常生


 カルロス・ゴーン氏を迎えて再建をめざしていた日産自動車が,前年までの業績不振を吹き飛ばし,この5月,2000年度決算で過去最高の黒字を発表した。氏のインタビューの中で注目すべきは,再建の原動力が,NRP(日産リバイバルプラン)のキーワード「コミットメント」に対する社員の姿勢であるという指摘である。広辞苑を引くとコミットメントとは「1.関わりあい,関与,2.誓約,公約,言質」とある。ゴーン氏の言うコミットメントとは,単に課題に関わるだけでなく結果に責任を持ち遂行する内容も含み,「必達目標」と訳されている。このキーワード,コミットメントを社員の多くがしっかりと意識し,各自が結果に責任を果たしたことが,成功の秘訣だというのである。


日常業務の中で「必達目標」を実現


 この事実は,私たちのまちづくりへの関わりに大いに示唆を与えるものである。近年まちづくりに様々な立場で関わる建築家は漸増し,都市環境への課題提起・提言も少なくない。ビジネスの世界とまちづくりを単純に比較できないのは当然であるが,状況の悪さを認識しつつ,関係者・当事者としてどう状況を改善していくかという点で真のコミットメントの視点は大切だ。プロフェッショナルとして都市の環境,空間の専門家を自負するのであれば,ただ現状を愁いたり批判するだけではなく,各自日常の業務の中で,都市やまちづくりにコミットし「必達目標」を実現しなければならないと思う。
 建築家の都市やまちづくりへのコミットのしかたは多様である。都市プランナーなどの専門家とのコラボレーションを含め,空間構造そのものの検討段階から建築家が関わるべきだという原則論は根強い。ある程度空間の骨格が固まってから,景観形成,街並み作りなどのいわゆる景観デザインへの参加事例も多い。また,単体建築設計の場合も,周辺環境との調和した街並みづくりや敷地境界付近の一体的空間整備など様々なまちづくりの視点が肝要だ。3月初め,都市づくり・街づくり等推進会議主催のシンポジウム「事例に学ぶ建築家の街づくり」でいくつかの事例報告を聞く機会を得たが,これらの事例のように市民活動などソフトを含めた関わりもまちづくりの大切な視点である。


市民,行政,他専門家の立場,役割の理解と尊重

 「必達目標」は一人では実現できない。建築家は,自己の個性・考えを主張することに慣れているが,前記のまちづくりはどれも一つの個性だけで成立するものではない。通例,建築単体設計に比べ,かかる時間も,関わる関係者も圧倒的に多く,意思決定のしくみも複雑だ。また,その成果も建築作品のように明確に現れにくい。そのため「必達目標」として明確なものを設定しにくい面もある。しかし一方で建築家は,異なる多様な要素,多様な条件を一つのイメージに纏め上げるのは最も得意とする職能である。これは必ずしもハード面だけではなくソフト面でもいえることは,いくつかの事例が証している。多くの関係者との協力・協調から必達目標を設定し,この分野で建築家が特性を発揮できる可能性は大きいと思う。そのためには,市民,行政,他専門家などの立場,役割を理解・尊重することである。また個人的経験では特に土木,都市計画など関連分野に関する見識を深め,価値観・進め方・ツールの違いなどを認識・把握することも大切だと思う。
 都市デザイン部会では,月例勉強会として,本年初頭から「建築家とまちづくり,21世紀展望」というテーマで各分野の専門家(建築家 藤本昌也,港区長 原田敬美,東京大学都市工学科 北沢猛,都市プランナー 加藤源の各氏)を毎月お一人づつ講師に招き,お話を伺い議論してきた。部会内では今後も多くの専門家と研鑽を深める方向が合意されている。
 「JIAまちづくり憲章」が一昨年鎌倉で採択された。建築家が単体だけでなく,環境,空間,街づくりに本格的に関わる立場であるという建築家像を改めて標榜した意義は大きい。NRPでゴーン氏のいうコミットメントの意味でとらえたい。



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