都市デザインの話
e-駅(イーえき)


加藤宏之建築設計室  加藤宏之



『都市はいかにつくられたか』(鯖田豊之著・朝日選書)の中に「連絡のない6つのターミナル駅」という段落がある。パリの6つのターミナル駅のあいだには国鉄列車による相互の連絡はない。なぜ,こんなことになったのか。パリ市民の反対だった。パリの各地区には特性があり,パリ駅を一つにまとめれば「パリの解体」をひきおこしかねない,と国鉄に反対した。地下鉄の建設は万国博覧会,ロンドンに遅れること40年近く。セーヌ県は都心のパレ・ロアイヤルに大地下鉄駅を建設し,6つのターミナル駅を地下鉄で連絡し,かつ国鉄との相互乗り入れの案を作成した。しかし,またまたパリ市議会は拒否をした。その理由はロンドンを視察したパリ市民,ロンドンの二の舞にはなりたくない。ロンドンの地下鉄はターミナル駅を結ぶ形で敷設され,はじめから鉄道との相互乗り入れをおこなっていた。おかげで郊外への人口流失があいつぎ,都心部の夜間人口はいちじるしく減少してしまった。どうやら,20世紀初頭のパリ市民の町づくり,便利さとは異なるものを求めていた。


大江戸線


「1月の始め,初めて乗った大江戸線。国立競技場から都庁で乗り換え神楽坂まで。翌日は麻布十番から青山一丁目。どの駅も住宅展示場,まるで建材のショールームのような趣き。今回は都市デザイン関連の人の助言があり,東京都はそのホームやコンコースのデザインを交通土木専門の設計者ではなく建築家に依頼されたという。建設省と運輸省の一体化を先駆けた東京都の試行。設計の条件は『各駅は各々個性を持ってデザインする』」というコメントをインターネットの掲示板に書く。「私も何度か,大江戸線利用しました。あたかも地球の中心まで行きそうな深い深いエスカレーターには閉口しますが,各駅のデザインは一つひとつ違ってとてもウキウキしますよね」というコメントが帰って来た。ボクの本心とはいささか異なるが,若い人の町や駅への関心の早さには驚いた。


ステーション・ルネサンス

 そしてまた,次のようなコメントをアップしました。「JR新大久保駅で痛ましい転落事故があった26日の同じ頃,東上線朝霞台駅,東武線竹の塚駅,翌々日には東海道線鴨宮駅でもホームからの転落事故が発生した。朝日新聞・天声人語氏は『道路にはガードレールが,橋には欄干や手すりがある。ホームに何もないのは,やはり危険ではないか』。当然の意見。いや,当然でしょうか。設備だけでは安全は買えない。不特定多数の人が利用する駅は都市の中の最大の危険地帯。その安全性を確保するもの,at your own riskしかないのだろうか。」「駅は今や通過スペースでもなければ移動のためのサービススペースでもない。マツモトキヨシやユニクロあるいはデリカテッセン・生鮮食料品店。保育所でありコミュニティセンター,駐車場であり,ホテルやお風呂にクィックマッサージ。SOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)進展の中ではデジタル・サービスセンターであり,eコマースの商品の受け取りと代金の支払い窓口。そこではモノのみならず音楽配信や各種情報サービスも受けられる。今,JRはそんな駅を構想する。名付けてステーション・ルネサンス。確かに,安全でさえあれば,駅は便利。そこに快適さが備わればみんな幸せ。???そしてまた,町からお店が消えて行く。」まだメールは帰って来ません。

 

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