都市デザインの話
再開発に必要な中立専門家
        同潤会青山アパート建替えに思う


NPOデザインハウス代表  野村徹也


 「同潤会青山アパート」建替え計画が朝日新聞(2000年2月26日夕刊)で報道された。内容は,アパート敷地に隣接する小学校とアパートが共同事業化,合築する記事だった。
 ところで,この朝日情報を見て思ったのは,原宿表参道の状況を表現する難しさであった。読み手が理解しにくい箇所,例えば敷地所有者の森ビル,建築設計者,それに渋谷区,また近隣住民がおかれたそれぞれの立場をもう少し補足しないと正確な状況が理解できないのではないかと考え,朝日の記事に少し論評を付け加えたい。
 さて朝日の導入は以下である。
 アパートが建てられたのは1927年。建て替え構想は30年以上前からあったがバブル崩壊で進まず,老朽化が進んだ。138戸中,今も住むのは,わずか20世帯ほど。98年に地権者の東京都が底地を払い下げしたことで,ようやく改築構想が動き出した。
  新ビルの開発は,森ビル(本社・東京都港区)が担当し,アパートの管理組合が「東京を代表するビルにしてほしい」と,東大教授で建築家のノーベル賞ともいわれる「プリツカー賞」も受賞している安藤氏に設計を依頼した。
 まずこの文脈。管理組合が建築家安藤氏に設計依頼したとあるが,正確にいえばオーナーである森ビルが設計者を指名したのである。したがって管理組合でなく森ビルが建築界の花形と安藤氏を持ち上げこれを朝日が採りあげたことになる。
 つぎに安藤氏の設計案。これはアパート,裏の小学校,測道で隣接する東電健保会館の三者を,一体型に再開発っする計画案である。この一体型案と別に敷地内に限定する計画もあるというが,森ビルが意図とするのは一体型でる。これは小学校を健保会館跡地に新築移転し健保会館を新ビルの床に組み込む。さらに新ビルの屋上に小学校運動場をつくりこれを新校舎と橋脚でつなぐプランである。
 つまり一体型事業とは,森ビルおよび健保会館の延床面積を,できるだけ多く確保させるのにたいし,児童数が減ったことで小学校の規模を縮小し新校舎を建設する,この議論に行き着く。
 朝日の紙面では,そうした一体型事業化で「街に人戻ってくる」賛成派と「環境悪くなる恐れ」反対派に分かれるとある。ここで街に人が戻るという賛成意見が,予定される新ビルに居住者が戻りこれで人口が増えるからでなく,観光や買物の目的で来訪者が増える意味であり,反対の意見は環境の利便性と安全性を含む都心では難しい要素を理由にしているように思える。要するにこの再開発事業が企業経済を優先させるのか,あるいは地域教育なのか,ボタンが掛け違うのである。
 設計者の意見がある。
  今も小学校の近くには商業施設があるのだから,建て替えた方が条件はよくなる。今後,表参道がますます商業化していくことを考えると,このような立体複合的解決もあるのではないか。
 共同住宅,教会設計から著名になった関西の建築家が安藤氏である。だが安藤氏からすれば,今回この記述に補足説明を加えたかったのではないだろうか。なぜなら再開発して小学校の条件がよくなるという理由が第三者にはよく理解できないのである。かりに新築の小学校がここにできても児童数が増えるとは考え難く,また商業地域のメリットである容積率を小学校が利用すべきというのであれば,教育を思う地域住民の思惑を逆撫でにしてしまう。
 当事者の小学校側は,教育財産であるから教育長に任するという渋谷区長の談話があるが,じつは学校の運動場がビルの屋上という賛否両論の前に,区が税金を投下してこの事業を行なうには,ややこしい問題がある。一つには土地を交換するなら持分をどのようにするのか,それに建物の複合化により運動場の管理負担など不動産の問題を解決しなければならないからである。
 それに事業には設計料や税制を優遇させる措置がある。だから専門家が建物設計や事業費の計算だけでなく, できるだけ広範囲の関係者の意見をまとめあげる総合的な資質と技術力が問われるのである。
 ここの事例を含めて,最後まで地域住民が歩み寄れないなら,日本の再開発事業は永遠にトラブルを引きずることになる。ところが,世界の再開発は新しきを採り入れ,古きを再活用する時代,それにデジタル情報化時代でもある。日本の再開発事業が国内外で評価を得るには,事業初動期より地域住民の資質を向上させる参加の機会を計画的に設け,これを中立の専門家の導きでなんとか進めなくては国際的な動向に遅れをとってしまう。このために,人が出会うデザイン手法をつかいつつ参加者を共通な目標に到達させる行司役がいて,はじめて事業が円滑に展開するのである。 


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