都市デザインの話
山手通りのおばけ換気塔


(株)佐藤尚巳建築研究所 主宰  佐藤尚巳


環状高速道路の整備

 首都高速道路公団及び東京都建設局において首都高速中央環状新宿線及び環状第6号線街路の事業が進められています。概要は,首都高速3号線,4号線,5号線を連絡する自動車専用道路(延長約11km)を環状6号線,通称山手通りの地下に建設し,合わせて山手通りも幅員40mの幹線街路として整備する,というものです。

 都市への集中緩和のための環状高速道路の整備は諸外国では既に広範に行われており,都市部への流入交通の制限と合わせて効果を上げています。東京でも早くから計画はあったものの,実現化が遅れていた環状高速道路の建設が漸く始まったわけで,来るべき世紀へ向けての都市構造基盤が整いつつあるのは好ましいことです。しかし一方で,高度成長期東京オリンピック開催にあわせて整備された首都高速道路は,主要幹線道路や河川の上空に暴力的に建設され,都市景観を破壊し,排気ガス停滞の問題も引き起こしています。こうした問題解決のための高速道路の地下化が都心部で初めて大規模に試みられる訳で,このこと自体は高く評価できます。ところが,これに伴う思わぬ副産物の存在が明らかになりました。それはトンネル内の排気ガスを処理するためのスケールを逸した換気塔です。

高さ45メートルの 巨大な換気塔

 計画概要を説明するパンフレットによれば,地下自動車専用道路のために,約1.5kmから2km間隔に換気所が8カ所(最近,換気所がもう一カ所増設されるとの噂を聞いている),計15本の換気塔が,拡幅された山手通り中央分離帯に設けられる計画となっています。換気塔の規模は,幅7m,奥行き15m,高さ45mというもので,周辺建物より遙かに高くすることで,排ガスの自然拡散を意図したものです。現状の周辺建物はせいぜい8階から10階建ですから,それを凌駕する高さ45mの換気塔(煙突)が道路中央にニョキニョキ建つ景観を思い浮かべると,ぞっとするものがあります。密集した都市空間の中では,これだけの土木構造物は1カ所でも脅威的であるのに,15本もチェーンのように立ち並ぶ姿は古今東西どこにもないのではないでしょうか。悪名高き首都高速道路が地中に消えたと思いきや,今度は巨大箱形煙突が都市景観を支配する新しい展開となりました。(写真:東中野付近モンタージュ)

景観に対する配慮のモデルケース

 高速道路の地下化は世界的趨勢で,ボストンでも既存の高架高速道路を今世紀中に地下化をする大事業が進められています。この換気塔が機能的に必要なものであるのならば,なおさら何らかの景観上の配慮をし,東京の都市資産として恥ずかしくないもの,高速道路地下化のモデルケースとして逆に世界に誇れるものを新世紀に残すべきではないかと考えます。

 現在,東京都も首都高速道路公団も広報活動を行っていますが,この計画の知名度は低く,完成時のインパクトの大きさを知る人は非常に少ないと考えます。そこで,このまま通常の設計がなされ工事が行われるのではなく,国際デザインコンペ等を行い,魅力ある都市構造物のデザイン提案を広く世に求めてはいかがなものでしょうか。これだけ存在感のある塔ですから,素晴らしいデザインを与えられ,親近感を持つことができれば,町のシンボルとしても受け入れられることでしょう。また一連の塔のデザインが,高密度都市の新しい景観を創造する先鋭的な事例として,世界的に脚光を浴びることもあるでしょう。

 これが単なるおばけ換気塔になるか,都市の魅力の一つとなるか,それが小さな手続きひとつを行うか否かに関わっていると感じるのは私だけでしょうか。

 

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