都市デザインの話
新旧が交差する都市 ベトナム・ハノイ


日建設計 東京計画事務所  奥森清喜


 ベトナムの都市デザインに係わる機会がありましたので,新しいものと旧いものが交差する首都ハノイについて,日本の現状と比較しながら報告したいと思います。
 昨今のベトナムの急成長は様々なマスメディアで報道されているとおりですが,首都ハノイは急速な経済発展とともに都市人口の急増現象が起きるという新しいうねりの中で,中国・フランスといった歴史的に関係の深い国々の影響を色濃く残すという二面性を持った都市です。

 その中でも,放射状に細い36の通りが張り巡らされていることから名付けられた36通地区は,歴史的な建物が多く残る地区です。ここでは京都の町屋に似たショップハウスといわれる建物が多く,奥行きの長い区画に路面部分の1階を店舗,奥を中庭を中心とした住居としています。また,通りの名は「絹物屋通り」や「金銀細工通り」と名付けられており昔のギルドの名残を残しています。

 首都ハノイのグランドデザインであるハノイ2020計画では,この36通り周辺の旧都心地区を原則的に保存し,その外周部分に外国資本や急増する人口の受け皿となる新都市を計画しており,新旧のバランスのとれた都市づくりを目指しています。

 私は首都ハノイの新都心計画に,欧米のコンサルタント・建築家とともに係わりました。その中で日本の建築・都市計画の専門家に期待されているものとして,これまでの経済発展を支えてきた都市づくりのノウハウに加え,欧米の技術を消化し独自のものとしていった過程,いわゆるローカライゼーションについての経験がありました。同様の視点で,ベトナムがその経験を取り込もうとしている国としてシンガポールがあげられます。

 シンガポールは緑あふれる美しい都市と質の高い住環境で知られる国です。シンガポールでは国家が強力に都市づくりをコントロールしており,土地私有制を基本に自由度の高い発展を遂げてきた日本とはある意味,両極にあるといえます。社会主義国であるベトナムは土地の国有が基本であり,シンガポールに近いといえますが,近年進められているドイモイ(刷新)政策の中で,実質的な土地私有化が拡大されています。

 今後もベトナムにおいては,規制緩和に代表される自由度を高める施策が展開されると予測されますが,その過程の中で歴史的地区の保存と新都市づくりといった新旧のバランスをどのようにコントロールしていくかが課題となるでしょう。

 翻って日本の都市の現状をみると,個々の自由度と全体の調和が求められる都市デザインという部門では経済レベルほどの差が認識できなかったことは残念に思った点でした。今後,成熟社会を迎える日本は,より全体の調和,バランスが重視される時代を迎えるといえます。

 今後の日本の都市づくりが,アジアにおける成長社会から成熟社会への転換モデルといわれる日が来ることを望んでいます。

 

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