公益社団法人 日本建築家協会 関東甲信越支部 世田谷地域会
The Japan Institute of Architects Setagaya chapter

群馬県川場村見学会

平成20年6月1日、2日に群馬県川場村で世田谷地域会と群馬地域会の合同見学会を開催



緩やかな傾斜地が続く沼田から川場村への道筋に、養蚕農家らしき切妻大屋根の民家と漆喰壁の蔵があちこちに見られる辺りから、川場村に入ったようです。
「道の駅・川場田園プラザ」に立ち寄ると、川場村の農産物が超特価で売られています。安いばかりでなく、新鮮でおいしそうなものばかりが、所狭しと並べられていました。
世田谷からやってきたという手打ちそば屋さんで昼食をとり、川場村役場へ向かいました。
JIA世田谷地域会が世田谷区民健康村を訪問するということで、副村長の谷田部氏が村内を案内してくださることになりました。
谷田部氏は元世田谷区の職員で、世田谷区民村の開所当初からの事情に通じておられる方で、当時のご苦労やエピソードなども交えていろいろとお話を伺うことが出来ました。
世田谷区民健康村には「なかのビレッジ」と「ふじやまビレッジ」があり、2つは同時期に開館しているということでしたが、その立地とコンセプトの違いから、それぞれ個性的な二つのビレッジでした。

川場村の生品宿の見学で川場村副村長の説明を聞く。


「なかのビレッジ」は坂倉建築設計事務所の設計で、敷地のコンターに沿ってカーブしながら斜面に埋め込まれた3層の構成の宿泊棟が特徴的な建築です。当初は冬季を除き、子供たちの林間学校などの利用を主体に計画されたというこの建築は、コンターに沿ってうねりながら伸びてゆく横穴(廊下)と風と光の通るタテ穴(光庭)との組み合わせで、ちょっとした洞穴体験をイメージさせる建築で、囲炉裏を囲んでの談話室などもあり、子供達にとって非日常の魅力とスリルを味あわせてくれる建築です。 屋根の上には土を被せているので、上空からの写真を見ると、宿泊棟部分はまるで斜面の一部となっています。


なかのビレジを見学

(設計者:坂倉建築研究所)・世田谷健康村宿泊施設



「ふじやまビレッジ」は林・山田・中原設計同人の林雅子氏の設計で、茅葺の大屋根を思わせる豪快でシャープな印象の建築です。
「なかのビレッジ」が川場村の山や緑、地面などを取り込んで自然の一部となっているのに対して、こちらは村内のあちこちに見られる民家の形を象徴的に取り入れることによって、村の風景の一部となっています。
いずれのビレッジも、休前日の予約は半年先までいっぱいということでした。

宿泊したふじやまビレジにて記念撮影

写真正面(設計者:林雅子)・世田谷健康村宿泊施設


川場村の民家の屋根は、古いものは茅葺きの屋根であったらしく、兜造りのものや小屋根のついたものなど美しい屋根でした。

現在では金属板葺きのものが多いけれども、やはり軒が深く、この集落が長い年月をかけて形を作ってきた簡素な美しさを感じさせます。

茅葺屋根の時代には、屋根の葺き替えに対応するための「茅場(萱場?)」が存在していたようです。 聞くところによれば、茅の葺き替えというのは50年に1度くらいの周期で行わる一世一代の大仕事で、現代では専門の職人さんも数少なくなり、茅の確保もかなり困難な作業なのですが、当時は、50年先の次の葺き替えのために茅場を育てて(放置しておいては良い茅場にならない)いたそうです。 自然の確保=住まいの確保、という自然と人間のリンクは今では危機に瀕しているわけですが、昔の人の賢明さを改めて知る話でした。

   

茅葺古民家を移築し、工事中の宿泊施設を現場見学


ご案内いただいた谷田部氏によれば、村では今、一部茅場を復活させようとしているそうです。茅場を保全することで森の手入れが行われるようになり、茅のみならず森全体の環境保全につながってゆく計画となるようです。

そして子供たちにその茅を刈ってもらい、その茅で屋根を葺いてもらうのですが、そうは言っても、2〜3坪程度の屋根を葺くのに200uの茅を刈る必要があるらしく、今のところミニ茅葺き屋根しか出来ていないのだそうですが、その体験を通して子供たちに伝えられるメッセージは、実に豊かな内容をふくんでいると思いました。

50年に一度の葺き替えの話を教えてくださったのは、「ふじやまビレッジ」建設当時の林事務所の担当者であった白川克典氏で、現在川場村で進行中の、茅葺き民家施設を移築・新築するプロジェクトの現場を案内していただきました。 県内及び山形県からの移築民家を数棟連続的にレイアウトした計画は、かなり迫力ある内容でした。


   

森の学校 茅場を見学



森の学校 茅場にて記念撮影


最後に谷田部氏が案内してくださったのは、生品宿(ナマシナシュク)という宿場で、街道筋に沿った宿場=タテマチと、直交して神社へ続く道=ヨコチョウとで構成された地区でした。

既に宿場町としての歴史は閉じているけれども、川場村らしい養蚕民家や土蔵、そして今は暗渠状になってはいるものの、かつては生活の一部であった水路が多く残っている地区です。 加えてタテマチ筋のバイパスが出来た事によって、これまで町を断絶していた車交通から解放される状況となったことから、何とか往時の水路と民家のたたずまいを取り戻したいがどうしたら良いだろうかと思案する谷田部氏から、何か良い知恵はないでしょうかと問いかけられて、「宿題」として地域会に持ち帰ることとなりました。

    

生品宿の養蚕農家の見学


宿泊先の「ふじやまビレッジ」での夕食後、近接の古民家にて地域会11月例会が行われました。

会場はなかなか見事な兜造りの古民家で、隣接する片品村から移築され、石野高野建築事務所により「ふじやまビレッジ」管理棟として改築設計されたものです。

人数のわりには広い土間で、囲炉裏を囲んでの例会となり、川場村の感想や今回の法改正と国交省のこと、そして先日のJIA大会のことなどに話題がすすみ、今大会で紹介されていた他の地域会の活動が活発であるのに対して、世田谷地域会ももっとガンバラナクテハ、との認識で一致しました。


夜は、移築古民家で地酒とともに懇親する、世田谷地域会と群馬地域会合同懇親会


今後、若手をはじめ地域会参加者を増やして行く方策として、世田谷地域会をアピールするデモテープなどを作成しようという提案がなさました。

例会を終えて外へ出ると、深々と冷え込んだ夜空に、まさに「満天の星」が輝いていました。

わずか1日のツアーでしたが、自然の中でリフレッシュしながら、大変収穫の多い体験となりました。