JIA Bulletin 2003年08月号/ほぞんもんだい

旧正田邸「解体中止」要望書の真意

保存の判断は地元主体で

保存問題委員会副委員長 安 達 治 雄
 現皇后の生家,旧正田邸については,その解体開始後,一旦中断された時点でTVなどでも報道されたとおり,日本建築家協会は協会独自の視点から,塩川財務大臣と高橋品川区長とにそれぞれ別内容の要望書を提出した。あくまで協会独自の視点のもとに,である。
「独自の視点」というのは,実はこれらの要望書は通常の「保存要望書」と比べ多少その趣旨,訴えが異なっているのである。
 財務省に宛てた1通は,旧正田邸の文化的・景観的価値に鑑み,いわゆる処分上の「更地原則」に付することを避け,売却予定先である品川区にこれの活用などの選択肢を残すよう,「解体中止」を要望したもので,「保存するかどうかの判断は その建物の地元主体で下すべき」という主張をJIAとして行った点にご注目頂きたい。
 文面にては「街並みが 地域の文化・歴史の総体的表現であることに鑑みると,景観を潤し かつ 地域の記憶を体現するこうした個々の建築は,地域の人々・地域の自治体によってこそ,その保存活用等についての判断・企図がなされるべき」とした点が,新しいと言えよう。
 品川区に宛てた1通も,骨子こそ「土地と一体にて購入し保存活用を図ってほしい」というものだが,「地域の人々・地域の自治体によってこそ次世代に豊かな姿で継承・活用されるべき」とした点にて,上記とエスプリを共有している。
 旧正田邸のようなケースでは,専門家が大切と考えるから保存するべきなのではなく,市民的合意こそが保存の大義名分であり,専門家はその補助役である,あるいは,そうありたい,ということをJIAの側から発信したものなのである。
 学会と異なるJIA独自のスタンス,職能人のポジション,こうした点は,保存問題においても,今後ますますJIAとして鮮明にしていくことが社会的に要請されつつあると筆者は考えている。
 この要望書が大宇根会長,松原支部長,そして保存問題委員会の小西委員長の3者連名という,やや異例の形で提出された点も特筆して置かねばなるまい。が,会長の連名は単に旧正田邸が社会的に大きな注目を集めていたからでは決してなく,その現象の背景に明らかに時代の流れ,街並み・景観あるいは保存に関する市民的関心の増大があり,これに職能団体JIAとして呼応するという決意の社会的表明と考えるべき,そう筆者は理解するものである。

要望書 全文

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