JIA Bulletin 2002年8月号/海外リポート


自然との共生が生み出す世界遺産

タイ,カンボジアの世界遺産を訪ねて ――千葉県建築設計監理協会・第9回海外研修旅行

 

JIA千葉 山田 守

 世界の美しい景観を見て周ろうと企画したシリーズで,過去8回で西側ヨーロッパを一通り回りましたが,今回は千葉県建築設計監理協会がJIA千葉と合体するために発展的解散をするので,その記念も含めて多くの会員に参加してもらうため安価で行けるタイ,カンボジアに目的地を決めての駆け足旅行です。


プラ・モントップ
(エメラルド寺院)

 エメラルド寺院(バンコク・タイ)
 水の都・バンコクは喧噪と静寂の混在する街である。寺院,現代建築,スラム街の同居する街である。お互いに相反する,あるいは対照的なものが線を画して同一地域内に背中をくっつけて存在しているのである。つまり,
騒音と静けさが同居することはあり得ないことで,ここはうるさい所,ここからは静かな所とはっきり区切られているのである。同じ人間がそれを何とも感じないかのごとく,そこに平然と住んでいることの不思議さ(鈍感さ),これは(日本を含めて)何でも拒まず受け入れるという仏教観からくるアジアの寛容さなのか,それとも鈍感さなのだろうか。
 そんな喧騒から区画されたエメラルド寺院は,周囲の喧騒が信じられないほど心洗われる静けさが展開される。極彩色に彩られた仏塔が天に伸びていく。豪華絢爛の極楽世界である。仏塔にしろ,教会の尖塔にしろ,天にそびえる塔は人間の心をワクワクさせるものがあり(このことが神や仏への信仰心を煽るのだろうが),シルエットの美しい街は都市景観の最大のポイントでもある。百塔の街・チェコのプラーハが世界の最も美しい街といわれるならば,このようにエメラルド寺院を始め,いたるところに仏塔のそびえるタイは,アジアで最も楽しい都市空間のある国といっても過言ではないと思う。
 静けさとは決して無音の世界をいうのではない。騒音のないことであり,「閑さや岩にしみ入蝉の声」「古池や蛙飛び込む水の音」に表された芭蕉の世界のことである。つまり,音があることによりその静けさが倍加されることである。読経の声,小鳥の囀り,そして軒先ごとにつるされた風鈴が風にゆれて貝殻のようなさわやかな音を出して,エメラルド寺院の静けさを盛りたてる。

ダムノン・サドゥアク水上マーケット
(バンコク郊外)

 ダムノン・サドゥアク水上マーケット(タイ)
 トラックのエンジンを改造して取りつけたという暴走族まがいの,けたたましいエンジン音を轟かせて疾走する7人乗りのゴンドラに乗って到着すると,時代を遡ったようなのどかな光景が待ちうけている。タイの首都・バンコクから約80キロ南西に位置し,タイのヴェネツィアといわれるダムノン・サドゥアク水上マーケットである。
 果物や野菜などを満載したサンパンという数百艘の小舟が,商いをしながら音もなく流されて行く。買う側もサンパンに乗り,あるいは岸から声をかけて楽しみながら商談をすることができる。蝉の声と小鳥の囀りが静かな環境の中の,静かさとしての楽しい賑やかさを演出してくれる。
 しかし,ここもやはり隔離された点としての静けさである。もし,ここに到着するまでのあのゴンドラの爆音さえなかったら,この地域全体が運河の水の音と蝉の鳴き声で満たされた,かけがえのない静なる楽しい空間が甦り,そのことがさらに世界中から人を呼ぶことになると思うのだが。


ライトアップされたワット・プラ・スィー・サンペット寺院(アユタヤ)

 アユタヤ(世界遺産・タイ)
 14世紀から400年間王都として栄えた水の都アユタヤは,1767年,隣接するビルマ軍によって完全に破壊し尽くされ,以降そのままの姿を呈している負の遺産でもある。もとの形を失った多くの仏塔や寺院が,時間というヴェールによって風化,そして美化されて歴史のモニュメントとしてアユタヤのシルエットを形成している。
 中でも第一級の王室守護寺院として最大であり,3人の王の遺骨が納められているワット・プラ・スィー・サンペットの3基の仏塔は朽ちてなお美しく,特に刻々と変わって行く夕陽に浮び上がるシルエットはドラマティックである。


  アンコール遺跡(世界遺産・カンボジア)

 王と神の接点(墳墓としてのセレモニー空間)アンコールワットと大きな都を意味するアンコールトムを中心として,東京23区に匹敵する広範囲に亘る。遺跡群は建築というよりも美術工芸品といった方がよいくらい密度の高いもので,例えば,その一部である壁画にしても,歴史,神話,生活,文化などが石に彫られた芸術的価値の高いもので高さ5メートル延べの長さが2キロにもなるのである。これだけのものを造らせる権力というものは想像を絶するものである。
 遺跡にしろ,遺産にしろいずれ滅び行くものを人間の手を加えて元の状態に復元する,あるいは現状を維持しながら手を加えて保存しようというものであるが,「梵天の古老」を意味するタプロムは自然に滅び行く姿そのままの現状保存という方法がとられている。50メートルの高さに達するスポアンという榕 樹の大木に覆われたタプロムの姿は人工物と自然との壮絶な戦いを見せつけられるようでもあり圧巻である。しかし,見方によっては年間40度という灼熱の密林の直射日光からこの霊廟を守っているようでもあり,戦いというより,むしろ,自然との共存といったほうが良いのかもしれない。

バイヨンの壁画「象に乗った兵士」
(アンコール・トム)

スポアンに覆われたタプロム
(アンコール遺跡)

 次回は,
「モスクワとアドリア海沿岸の世界遺産を訪ねて」
 日時;2003年9月8日〜9月15日(予定)
モスクワ,リュブリアーナ,ザグレブ経由でアドリア海の真珠といわれるドブロブニク,コトル,ステファンなど,滅多に訪れることの出来ない美しい都市を訪れます。詳細は次年度本誌「イベェント情報」欄にてお知らせする予定ですが,早くお知りになりたい方は当方まで御一報下さい。(Tel:0436-61-2681,Fax:0436-61-2278)

〈(有)山田守設計事務所 主宰〉

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