JIA Bulletin 2001年9月号/海外リポート


ランドスケープ・アーキテクトの

職能制度と継続教育の現状

岩 田 明 子

2000年ASLA大会会場となったセントルイスのアメリカズ・センター
 アメリカにはAIAという建築家の職能団体があるように,ランドスケープ・アーキテクトにはASLA (American Society of Landscape Architects) という協会組織がある。そして建築家登録試験(ARE)に当たるのがLARE (Landscape Architect Registration Examination) で,資格試験や職能の規準を管理するシステムであるNCARBに当たるのがCLARB (The Council of Landscape Architectural Registration Boards) である。アメリカでもランドスケープ・アーキテクトの職能の歴史は建築家に比べると浅いので,資格試験のシステムや協会組織の構造は建築で発展してきたものを参考に,ランドスケープの職能の実態に合わせて作られている。また職業の責務や仕事は,ランドスケープ・アーキテクトでは,プロジェクトによってその範囲に柔軟性があるのと比較すると,建築の場合には内装や設備を含めた詳細に関する作業が圧倒的に多いことから,ライセンス制度や継続教育の義務化は進んでいて当然という印象がある。

幅広い専門家の参加
 AIAの会員になるには登録建築家でなくてはならないが,ASLAではその必要性はなく,建築,都市計画,土木など,他分野の専門家に開かれた会員枠を設け,彼らの参加を奨励している。これは職能としての歴史が建築より浅いため,メンバーを絞るというよりも幅広く会員を募り,その社会的認知の向上を目指している,という話もあるが,それは同時にランドスケープ・アーキテクトという職能の特性をも表している。ランドスケープ・アーキテクトの職務範囲は広く解釈され,シティ・プランナー,コミュニティ・プランナー,環境デザイナー,ツーリズム関係者,ホスピタリティ(ホテルビジネス)関係者,不動産関係者,ファイナンシャル・プランナー,弁護士などの分野の専門家がこの職務に深く関わってくることが少なくない。その中でランドスケープ・アーキテクトはそれらの専門家とチームを組み,コーディネーターの役割を果たすケースも多いため,他分野への幅広い視野を常にリフレッシュしておくことが,その職能の責務を十分果たすため重要であると考えられている。
職場風景:マスタープランのコンセプトのためにチームで意見を出し合いながらその場で絵に落としていく。EDSAにて。(Team working for conceptual master plan at EDSA)
2000年ASLA年次会議の会場風景
資格試験に州独自の科目
 LAREはAREと異なり,現在は決められた日程で試験会場に赴いて,手によるマークシートへの記入方式で受験する仕組みだが,次第にAREのようにコンピュータ化されるだろう。アメリカは各州で法規制の事情が異なり,気候や植生も多様なので,LAREの6科目にはその州独自の科目が含まれている。A)実務のための規制と管理,B)実務におけるプロジェクト要件の分析,C)プランニングと敷地デザイン,D)構造と材料,E)造成,排水,雨水管理,に加えて,フロリダの場合なら,フロリダ・セクション(フロリダの植栽と法規制を含むフロリダにおける実務のための科目)の6科目である。構造と材料の科目では最近まで詳細図は手で描かされたが,CADはすでに一般化したという判断から選択肢方式になった。描き起こせなくても間違いが発見できればよいということだが,実際の試験では類似したディテールがいくつも選択肢として並び,その中から答えを選び出すのは容易ではない。AREでは試験がコンピュータ化されて,遠い試験場まで出向くことなく近場で都合の良い日程で受験できるのはかなり便利とのことだが,LAREの方は未だに年二回の試験会場での受験なので,日程の融通のなさや飛行機やホテルの予約の必要性などは,始終仕事の締切りに追われている私たちにとってはプレッシャーである。アメリカでは大学,大学院入学のためのGREやTOEFLなどもコンピュータ化されており,内容は違うにしろ皆慣れているので抵抗感はないようだ。LAREでは受験料は6科目で計900ドルにもなる。まだ資格をもたないレベルのスタッフはさほど高給を得ていないのが普通なので,これはけっこうな出費となる。また一度で全科目に合格することはまれで,たいていの人は二,三回試験を受けに会場へ赴くことになる。建築家の場合は,試験勉強用に整理された資料やフラッシュカードが市販されているが,ランドスケープ・アーキテクトには教材の数があまり揃っていないことも合格を難しいものとしている。
サイト・エンジニアリング(造成、排水、雨水管理)の授業での課題の一つ
(コーネル大学ランドスケープ・アーキテクチャー学科、
Professor Marvin I. Adleman, Cornell Universityによる授業にて。1996年)

ライセンスは州ごとに必要
 実際日常のレベルで,アメリカの建築家やランドスケープ・アーキテクトはこの資格試験や継続教育についてどのように取り組んでいるのだろうか。将来独立を考えていたり,最初に就職した会社で一通りの基礎を短期間に修得し次の会社でのステップアップを考えている人々などは試験合格に熱心である。一方比較的安定した大きい事務所で働き,その会社で順調にキャリアを積んでいる人々は試験にあまりこだわらない。そういう人々は概して日々実務に忙しく,試験勉強の時間をあまりとれないことも一つの原因である。だからプロジェクト・マネージャーで成功している人がまだ登録していないということは珍しくない。大きい事務所ならライセンス取得者が一定数社内に居るので,彼らが最終図面をチェックしスタンプすることが可能である。ランドスケープ・アーキテクトの場合は州ごとにライセンス取得が必要だから,他の州のライセンスも取得してあるとアメリカ全土にプロジェクトを持つ事務所への転職に有利だ。
 大学卒業後登録には1〜3年の実務経験が要求されるが,州によって年数は異なる。州によってライセンスを特に重視しないこともあり,逆にニューヨークやカリフォルニアなどの州では高い基準を要求する。ランドスケープをアメリカの大学で学ぶ場合,プロフェッショナルを目指す学生はASLAに認可されたプログラムを持つ大学へ行く。認可大学のプログラムを修了していることが,将来実務経験の後,試験に合格して登録建築家になるための第一段階である。二,三年に一度大学プログラムの審査があるから,学校側も教授陣も真剣だ。よい学生を集め,優れた授業を提供することは教授陣のキャリアにも直接つながる。必須科目ではコンセプチュアルなデザイン思考を鍛えられる一方で,構造や施工図面などの実務的な授業もしっかり組み込まれている。実際のクライアントを招いてのプロジェクトも授業の課題として提供される。夏休みになるとサマーインターンとして設計事務所で働く学生も少なくない。大学院レベルでは,既に関係分野での実務経験のある学生もいるので,お互いに学ぶことも多い。このように大学で学ぶ過程から実務への移行が滑らかであるので,新卒者も社会において即力を発揮できる。LAREの場合,合格しても即登録はできないが受験は学生の時から可能だ。大きな会社や知名度の高い事務所では,社員数が多いことから逆に登録建築家の割合が低くなる場合もあり,会社のライアビリティに問題を派生しかねない。そのため事務所によっては,社員に勉強用資料を提供したり,受験ための有給休暇などの便宜を図ってライセンス取得を奨励し,資格保有者の割合を上げる努力をしている場合もある。

継続教育義務化の方向

 AIAの継続教育の義務化は,インターネットを通して記事を読むだけの自己学習のような単位取得の方法もあり,それほどの重荷ではないようだ。AIAのウェブサイトをブラウズすると,継続教育義務化の負担を軽くし,建築家の自己啓発を支援しようとしているのがよく分かる。ランドスケープ・アーキテクトではまだ義務化はされていないが,継続教育の啓蒙が目立つようになっており,近い将来建築分野に倣って義務化する方向に進んでいるようだ。建材の企業などが継続教育のプロバイダーになるケースでは,彼らはもともと建築事務所を訪ねてプロダクト・ランチョン(彼らの用意したランチを食べながらその製品の説明を聞く営業スタイル)を開く習慣があり,これへの参加で忙しい建築家でも単位を稼ぐことができ,その企業にとっても製品の宣伝になればたいへん具合がよい。しかし話を聞くだけでなく説明の後に記入式のテストもあって,ストレスになったとの体験談も聞いた。プロダクト・ランチョンは,締切りに追われ忙しくてランチに外に出られないときに,ちょうど息抜きにもなり,お昼も食べられる,という期待があるから,そこにテスト用紙が出てきたら興ざめかもしれない。

ビラの展示用モデル
EDSAのプロジェクトの一つ、エルコンキスタドー・リゾート・アンド・カントリークラブ所有の丘の上のビラ、ラスカシタス、プエルトリコ(One of EDSA works,Las Casitas of El Conquistador Resort and Country Club, Puerto Rico):ランドスケープのためのマスタープランは、丘の上にビラを小さなヨーロッパの町並みをイメージとして配置し、曲がりくねった小道と階段が全体の動線をつなぐことで、変化に富みこじんまりとして親しみのある町にいる感覚を創造している。それぞれのビラのための、少しずつデザインの異なる小さな中庭や小さな柱と門がゲストに滞在する自分のビラに対する愛着を与える。駐車場はリゾートの美しさを損ねないよう中庭の延長のようにディテールに工夫をし、植栽をした緩衝帯を頻繁に挟み込む。
システムとして流動的に変化し機能する
 日常の業務に追われると,作業がルーチン化し新陳代謝が悪くなる。プロフェッショナルとして常に最新の情報に触れ,技術の修得と向上を図ることが必要なことは頭で理解するものの,なかなかそうはいかないのが現実だろう。AIAやASLAの年次大会への参加はプロフェッショナルとして大いに刺激され最新情報も入手できるよい機会だ。しかし会場における参加人数は多いものの,身近な社内で見ると,興味がない,忙しい,費用がかかる,などの理由で参加する人は少ないのが実情だ。協会としてプロフェッショナリティを啓蒙する点で継続教育の義務化の意義は大きいと思われる。この継続教育を考察して気付かされたことは,登録建築家,継続教育,建築家協会,年次会議,EXPO,建設関連企業,大学などの団体やプログラムが,専門性の高い職能基準の向上のために一つのシステムとして,流動的に変化しながら機能しているように思われる。アーキテクトやランドスケープ・アーキテクトの分野でも,我々がリードする,というアメリカの気概が感じられる。
〈 E D S A フロリダ本社 勤務 Akiko Iwata, E D S A Fort Lauderdale, Florida〉
Special thanks to Jennifer Slavik, Peggy Nye and Lodin, Inc. Associates in Architecture & Interior Design and Larry Wright, Zyscovich Inc. for helpful comments about AIA and ARE.

海外レポート 一覧へ



Copyright (C)The Japan Institute of Architects Kanto-Koshinetsu Chapter 2001