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 JIA Bulletin 2016年1月号/特集:若手建築家活動支援制度

国と国のあいだにあるもの
-Life in Bangkok-

冨塚 崇

冨塚 崇


■What’s the difference between “生活” and “人生” ?
 この問いを前に私はハッとしてしまった。英訳するとどちらも”Life” だが全くニュアンスが違うのが、日本人であれば容易に想像できる。あなただったらどのように考え、説明するでしょうか。

 

 私は2014年6月から2015年5月までの期間、UIA2011東京大会の継承事業としてASA(タイ王立建築協会)とJIA(日本建築家協会)主催によるASA-JIA EXCHANGE PROGRAMに一期生として参加し、バンコクで初めて海外での生活を建築設計の実務とともに体験しました。このプログラムを簡単に説明すると、比較的若い年代(30歳前後)を対象とし、日本とタイから2名ずつ計4名がそれぞれ別の国の設計事務所で実務を経験するというもので、私はOBA(The Office of Bangkok Architects)というSmith Obayawat氏主宰の事務所に勤めました。私がバンコクに到着したときには、デモが起こってから少し落ち着きを取り戻してきたタイミングでしたが、それでもBTSなど市内の駅には銃を持った兵士が警備を行っていました。ただそういった若い警備兵も休憩中にはスマートフォンをいじったりと、それほどまでに緊張状態にないというか、タイ独特の気だるい空気感は残っており、帰国後間もなく痛ましいテロ事件も起こりましたが、政情不安定と言われながらも実生活にはとてもゆったりとした時間の流れの中で、新たな生活とこれからの人生について考えていきました。

 

気候の比較(上がバンコク、下が東京)

 

 生活する上で日本とタイで大きく異なることのひとつが気候であり、写真は東京とバンコクの年間気温を色で表し比較したものです。赤が32℃以上を表しますが、バンコクは年間平均気温は30℃近くで、季節も雨季と乾季しかないため非常に変化が乏しく、年中同じ衣服で生活できてしまいます。それは言い換えれば日本の四季のあり方やそのサイクルの繊細さを再認識したということでもありました。ただそういった環境であるからこそ、街中のいたるところに屋台があり、車やバイクの行きかう道路を目の前に置かれたプラスティックの椅子に座り、ビールを飲みながらスパイシーなタイ料理を楽しむこともできます。
 この写真は現在のバンコクの都市の現状を映し出しており、背後には高層ビル、その手前には新しい建設予定地で空地の整備が進んでおり、ビビットな色彩の花々とともに背の高い樹木が立ち並び、チャオプラヤ河から分岐した運河には通勤用のボートが流れています。このように新旧が割にはっきりとしたかたちで現れてくるのがバンコクの都市像です。

 

バンコク中心部の風景

 

 バンコクの中心市街地では建設ラッシュが続いており、著名な建築設計事務所によるものも竣工しはじめています。そのプログラムもショッピングセンターやリゾートホテル、レジデンス、オフィスなど、観光大国ならではのものやバンコク中心部に住む人たちの生活環境を大きく変える程の力をもつ規模の建物が立ち並び始めており、インフラの整備も進み、華やかな都市に変貌しつつも、それと同時に駅前の屋台街が移転せざるを得ない状況に追い込まれ、タイの伝統的な景色が失われつつもあります。また、地震が起こらないことや、法規が日本と異なるため、大きな吹抜けがいくつも重なり合った開放的な空間がいたる所で見受けられます。

 

MahaNakhon by OMA Central Embassy by AL_A
Siam Square One by OBA Sofitel So Bangkok by OBA

 

 私の勤めることとなったOBAは総勢で70名程度の、日本で言うなら中規模の設計事務所で、建築とインテリアの二つの部門があります。やはり日本と異なり国柄が表れているのが労働時間で、普段は10時前に出社し18時くらいには作業を終え、皆帰るか周りのスタッフ同士で雑談したり、着替えてランニングやスポーツをし始める方もいます。私がバンコクで1番多くの時間を共にしたのはもちろんOBAのスタッフの方々で、皆が朗らかな雰囲気を持つ大きな家族のような設計事務所でした。

 

OBA(社員旅行での集合写真)

 

 OBAは名前通りバンコクを拠点とする設計事務所で、手がける建物はリゾート施設が主で、バンコク中心駅に直結するショッピングセンターのSiam Square One、バンコク一大きな公園であるルンピニ公園に面する5つ星のホテルSofitel So Bangkokなどを手がけています。私自身も地方のリゾートホテルやレジデンスの基本設計に携わりました。日本ではなかなか関わることのできないプログラム、規模そして法規や、接する方々、言語の異なる中で設計するというのは、困難な部分もありながらも、新鮮さをもって楽しむことができました。

 

 このプログラムに参加した動機は、旅行ではなく長い期間を設けて、異なる文化や生活スタイルに触れ、その場に身を置くことで、私自身の価値観に広がりが生まれるのではないかという期待からでした。留学経験などのない私にとって、海外の設計事務所で働くことのできるまたとない機会でもあり、それにより日本の現状を俯瞰してみたいという思いもありました。
 バンコクでの生活を通して得ることのできた大きなことは、物事をより客観的・相対的に考える視座が広がったことです。例を挙げると、ニュースひとつをとっても、異なる言語で書かれた文章にも接するよう努めることで、その内容の差異、捉え方の違い、それらに対する世界の様々な意見に触れ、それを周りにいる人々と会話することが日常的になります。そのような環境で生活するということは、私自身にとってその国がどう見えるかということと同時に、自分自身がどう見られているのかということにも意識的になります。こうしたことは、海外である程度の期間生活することでしか得ることのできない貴重な財産であり、自らの生活・人生を見つめなおす良い時間でした。
 このプログラムが、若く建築を志す人たちが世界へ渡るためのひとつの架け橋として育っていくことを願っております。またこのプログラムを運営してくださってる方々には改めて御礼申し上げます。ありがとうございました。