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 JIA Bulletin 2016年1月号/特集:若手建築家活動支援制度

若手建築家活動支援制度について


萩原 廣一


1 夢を育む
 2015年10月19日夕刻、JIA館・建築家クラブ。国際建築活動支援フォーラム(JSB)の助成プログラム参加者による合同報告会。将来、国際的に活動できる若手建築家養成のためのジャンルごとの体験発表だ。

 

(1)「アメリカ西海岸建築現場体験」
 主催はアメリカ建築家協会日本支部(AIA-J)実行委員会。9月13日から10月4日の間、ポートランドとシアトルの設計事務所で、筑波大、芝浦工業大、慶応大、明治大の5名がリーダーの山田崇史氏(慶応大院。博士課程)と共に訪米。訪問先は、ポートランド:THA Architecture, ZGF Partnership, PLACE Studio、シアトル:Miller Hull, Mahlum Architects, Portico Group 。これらは、現地の柳澤恭行氏(前AIA-J会長)らの支援によるもので、それぞれに1〜2名配属。現場では日本紹介のプレゼンに始まり、その町の指定場所についての課題設計、設計会議参加、建築現場視察などアメリカの具体的な実務を身をもって体験。「市民の建築への理解の違い」、「スタッフへの声かけや意見の求め、事務所内でのランチミーティング」など、仕事の進め方の違いも新鮮だった様子。リーダーの山田氏は、「学生たちの業務対応は、ポートランドからシアトルまでの3週間で大きく成長した」と評価した。JSBは渡航費等を助成した。

 

(2) マドリッド欧州大学主催「建築デザイン3大陸マスターコース学費助成
 このプログラムは、岩村和夫氏(東京都市大学名誉教授、JSB評議員)のご尽力により実現。2014年には2名、今年度は1名。1月から10月までの間、マドリッド_UEM、上海_TJAD、サンディエゴ_NSADの順に、3ヶ月ずつを世界の先端に触れ、学ぶことで、国際的な人材を養成しようとするもの。今年は、小畑祐樹氏がスペイン人、イタリア人2名、メキシコ人と共にこの期間を過ごした。彼は、報告会で次の印象的な感想を述べている。「今、世界をフラットに、相対的に見る視点が身についたため、どれが絶対的に良いかという評価は出来ない。今後は自分なりの評価軸を意識的に見つめなおす段階に来ている」。また、「建築家は作品だけでは駄目で、政治や経済などの分野への関心が必要だ」とも述べた。(詳細は小畑氏の別稿参照)JSB は、全期間の学費を助成した。

 

(3) 日本とタイの現役実務者による「建築実務交換研修」
 日本建築家協会(JIA)と王立タイ建築家協会(ASA)の主催。2014年4月から開始した建築実務者2名の交換研修。昨年度は、「芦原太郎建築事務所」、「安井建築設計事務所」がタイの若手を受け入れ、「The Office Of Bangkok Architects」、「Architect49Ltd.」が日本人を引き受けた。今年度は、「安井建築設計事務所」と「山下設計」がタイ人を受け入れ、「A49」と「Palmare&Turner Ltd.」が日本人を受け入れた。1年間の生活費は受入れ側の負担。JSBは日本人に渡航費等の支度金を助成。また、日本の受け入れ側の負担軽減のため、経産省の【海外産業人材育成協会】の資金活用。例外的にJSBが受け入れ研修生の年間の住居費助成をした。昨年の研修終了者の一人はタイの日系企業に入り、他は、帰国し新たな事務所で仕事に就いた。(詳細は富塚崇氏の別稿参照)報告会には、現在日本で受け入れている、Wittda Payormyong氏とPitchaya Prasertwong氏が参加。シェアハウスに住み、仕事の合間に各地の建築作品を見学する等、意欲的に日本での生活を楽しんでいるそうだ。「日本の勤務時間の、なんと長いことか」との感想も聞かれた。

 

2 初期の目的は?
 およそ3年前、この事業に期待していたことは2点だった。一つは、当然ながら、建築家を目指す若者たちが海外への関心を高め、積極的に国際市場で活躍する優れた人材の養成にあった。現在まで、95名の若者に世界の27都市でさまざまな経験をするチャンスを提供することが出来た。すでに米国や豪州でアート系の仕事を始めている者や世界を相手にした起業の決意を固めた人もいる。二つ目は、JSBの動きを契機に「将来、この国の建築を支え、世界を目指す活動」が社会的に広がり、波及していくことを期待した。しかし、JIA&ASAとの交換研修では、高階澄人氏がASAとの交渉に尽力する中、広報不足もあり組織的関心も高まらず応募者探しに苦戦している状態。一方、AIA-Jの米国西海岸プログラムは3回目だが、当初の櫻井泰行氏から柳澤氏、山田氏へと継続できる態勢と経費的措置が少しずつ固まりつつある。

 

3 費用から投資へ
 わが国建築界の発展と存在を支えてきた国内市場の大前提が、今確実に変わりつつあるのはもはや誰も否定出来ない。政府でさえ、例えば韓国と日本の建築のベトナム市場における受け入れられ方の違いに強い危機感を表明している。海外市場開拓を重視しているからだ。海外市場への計画的な進出の為、今こそ自らの負担を将来の投資として、強い人材の養成が、建築界に求められているのではないだろうか。競争相手は海外にいるのだから。

 

ポートランド、シアトル体験発表