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 JIA Bulletin 2016年1月号/特集:若手建築家活動支援制度

スペイン、中国、アメリカの建築教育と全体的動向
- 3大陸マスターコースを終えて

小畑 裕樹

小畑 裕樹


 JSBの支援を受けて、2015年1月より9月までの9ヶ月間マドリッド欧州大学の3大陸マスターコース(Universidad Europea de Madrid / TRIcontinental Master's Degree In Integrated Architectural Projects 修了)にて研修を積んできたので、その報告をかねて各国の建築教育や業界全体の動向を紹介します。
 3大陸マスターコースは、マドリッドで3ヶ月の理論的研修、上海で3ヶ月のインターンシップ研修、サンディエゴで3ヶ月のファイナルプロジェクトを行うというプログラムで、今年度で4回目の開催となっています。今年度はスペインから1人、イタリアから2人、メキシコから1人、日本から1人のインターナショナルなメンバーで共に3大陸を周りました。このプログラムには、毎週異なる建築事務所を訪問する時間が組み込まれており、実際の実務者からお話を聞き、それぞれの事務所の建築に対するアプローチの違いを知ることができたことが最も大きな収穫でした。

 

プロジェクトマネジャーとチームメンバーと共に
マドリッド欧州大学 建築学科の入るC棟

 

Universidad Europea de Madrid(マドリッド)
 2015年1月から3月はマドリッド欧州大学での理論的研修でした。3ヶ月を3週間ごとの4ブロックに分け、各ブロックにワークショップ2つ、セミナー1つ、コンピュータスキル1つ、そして週1回のオフィス訪問という充実したカリキュラムでした。
 それぞれのワークショップでは、実際に建築を作っているプロの建築家の担当のもと、様々なアプローチから建築を考えました。建築家と共同してクライアントのための家具を作ったり、設計者本人に建築を案内してもらうという貴重な経験もできました。
 オフィス訪問は、約半分が小規模アトリエ系の建築家、残り半分がエンジニア系の大規模事務所でした。スペインでは不況の影響で仕事があまりなく、多くの若手建築家が海外に職を求めて出て行きます。一方で、コンペや小規模なワークショップで仕事を見つけようとする動きも活発でした。アトリエ系の事務所はエンジニアリングの事務所と共同してプロジェクトを進めるというのが一般的なようでした。
 建築教育やアプローチとしては、よりコンセプチュアルに考え、最終アウトプットはビジュアルメイン、レーザーカッターや3Dプリンタによる模型製作が普及していました。この傾向は世界中で同時進行しているように思われます。

 

Torres Blancas 設計:Francisco Javier Sá 緕z de Oiza (Madrid,1968)
設計者の息子さんに案内してもらい住居内部を見学

 

■ Architectural Design and Research Institute of Tongji University CO., Ltd(上海)
 4月から6月は上海の同済大学建築設計研究院(集団)有限公司でインターンシップをしました。推定2000人近い社員を抱える巨大企業で、メンバーはそれぞれ別の部門に配属され、コンペや実際のプロジェクトに関わりました。私はコンペではなく、現在進行形のプロジェクトの3Dモデリングやレンダリング、基本設計を担当し、社員と英語でコミュニケーションを取りながら業務を進めました。
 オフィス訪問は、約半数が中国人のローカルアーキテクトの事務所、残り半数が外資系大企業の上海事務所という構成でした。上海は最盛期に比べれば建設ラッシュの勢いは衰えているかもしれませんが、世界的に見ればまだまだ需要はたくさんあり、プロジェクトの動くスピードも早いです。外資系企業が大きなプロジェクトを動かしているのが非常に印象的でしたが、一方で中国のローカルアーキテクトもプロジェクトとしては良い仕事をしており、頭角を現してきている事務所も多数ありました。中国では政府やクライアントの力が強く、形だけのデザインとなることがしばしばですが、真摯により良い建築を生み出そうとしているローカルアーキテクトが増えてきているようです。今後この国内外の勢力がどうなっていくのかは注目したいところです。
 上海では建築教育の現場を実際に見たわけではありませんが、キャリアの選択肢として、ローカルの事務所、外資系の事務所、海外という選択肢があり、特に世界中から建築家が集まってきている環境は恵まれていると感じます。実際に中国人は世界中に人材を輩出しているということが実感できました。

 

Hongqiao Flower Building 設計:MVRDV (Shanghai,2015)
竣工間際の現場を見学

 

■New School of Architecture + Design(サンディエゴ)
 7月から9月はアメリカ西海岸のサンディエゴの大学でファイナルプロジェクトを行いました。3大陸のメンバー5人に加えて、現地の大学院生8名と共にスタジオ形式でプロジェクトを進めました。初めの2ヶ月間は、ミニアサインメントやフィールドワーク、レクチャー、参考資料の読み込み、ケーススタディ設計を通じて、サンディエゴの現在の建築がどのように生産されているかということの知識を深めていきました。最後の1ヶ月はマドリッド欧州大学の教授が先導し、2050年のサンディエゴの都市に対する計画を行いました。アメリカ特有の車社会に端を発する都市生活問題についてアメリカ人と議論することにより、当事者意識を持って問題に取り組むことができました。
 オフィス訪問は、9月中旬にまとめて11の事務所を訪問しました。スペインの建築的美学を尊重するアプローチと比べると、アメリカの建築家にはデベロッパーよりの考え方が多く見られました。経済性と見た目の良さを追求したデザインが普遍性を獲得している状況だと思います。
 大学やスタジオによるのは当然ですが、 私が経験した範囲では、学生のうちからリアリティとキャリアを見据えて教育するというのがアメリカの特徴だと感じました。

 

Torr Kaelan 設計:Rob Wellington Quigley (San Diego,2015)
Rob Quigley氏自身のオフィス兼住宅となっている

 

■今後の可能性と展望
 異なる大陸の異なる3カ国で建築を勉強し、世界をフラットに見られるようになりました。世界的な建築家になることを志して本プログラムに参加したわけですが、プログラムを終えてその目標に近づいたことは間違いありません。今後は、建築に対する自分独自の評価軸を確立すること、自分の立ち位置を明確にしそれを踏まえて世界に発信していくことが求められます。日本と海外での文化の違いを増幅するような方向性に可能性を見出しています。

 

Gensler San Diego Office 訪問の様子