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 JIA Bulletin 2015年7月号/覗いてみました他人の流儀

面出薫氏に聞く
「照明デザイナーの役割」

面出 薫

面出 薫氏
聞き手:Bulletin編集委員


■照明デザイナーになるまでの経緯
学生の頃やデザイナーになるまでのことをお聞かせください。

 子供の頃から体を動かすことが好きで、体育や音楽、美術などが得意な活発な子供でした。小学校ではバイオリン、中学に入るとトランペットをやったりして、特に音楽が好きでした。
 高校生になると本格的に美術に興味を持ち始めるのですが、画家になるつもりはなく、デザインという言葉の響きに引かれていました。
 大学ではビジュアルデザインと立体デザインの二つに分かれていて、私は工業デザインを選択しました。私は工業デザインがその生産の仕方なり、多くの消費的なデザインをしてしまうということに違和感を持ち始め、大学院の頃には建築に興味が移っていきました。建築科の仲間とユニットを組んで中野に小さなアトリエを借り、彼らと建築のコンペなどに参加したり、建築だけではなく環境デザインの勉強会などもやったりしていました。そのような流れで環境デザインをやりたいと思うようになったのです。環境デザインは当時、今ほど様々なジャンルがなく仕事も限られていましたが、大学の先生の薦めもあってヤマギワに行き、照明デザインをすることになりました。
 その頃の照明デザインは器具をデザインするプロダクトデザインか豪華なオブジェを作ることが主流でしたが、私は器具はできるだけ目立たず空間をどのような光で演出するかという建築照明デザインに興味を持っていたので、照明器具をデザインしない照明デザイナーになろうと思いました。ヤマギワの研究所で仕事をした12年間では、世界中の建築照明や都市を視察調査する機会にも恵まれ、充実した期間でした。

 

Ping An Financial Centre (CG)
Alila Villas Uluwatu 撮影:金子俊男

 

■照明デザイナーとしての活動と役割
独立当初から作家的志向ではなく、デザイナーとして社会にかかわることを強く意識されていたのですか。
 照明デザインは実際にやってみると奥が深く、また、照明デザインが上手くないために建築の価値が下がってしまうことも少なくないという印象をもっていたので、ここでこの職能をしっかり磨き上げれば建築の価値も高まり社会に貢献できると思いました。作家的な物づくりではなくて、「照明デザインっていいですね」と多くの人に思ってもらえるようにしたかったのです。団塊の世代の人達はどちらかというといつも社会をひっくり返したいとか、何か満足しないものを糧にしながらデザインしていましたが、私が光のデザインを始めたときもそのような感じで、どうして日本の住宅は狭い部屋のまん中に真っ白な蛍光灯が輝いているんだろうか、それをとても不幸なことだと思いました。私たち照明デザイナーは、黒子に徹しながらも成功した仕事の成果を多くの人に見て欲しいのです。東京国際フォーラムなどは公共空間で通常設定されている300lxの通路を50lxまで抑えても歩くのに全然困らないのです。東京都の人にも50lxが十分気持ち良いということが分かってもらえました。過去にあまり理由もなくつくられてきた照明環境というものを覆していきたいと思っています。

 

現場や経験から学ぶことの重要性
 照明デザインは出来上がるものに対してデザイナーがどれだけ責任がもてるのかということが重要で、その意味では実際に現場に足を運んでこそ得られるものがたくさんあります。ですので、机上でデザインするだけではなく、実際の現場に赴き、自分の目で確かめるということが非常に大事になってきます。書物や歴史から学習できることもたくさんありますが、普段から自分の五感を鍛え、多くのことを経験から学び、本に書かれていることも自分の眼で確かめた上で納得してやっています。
 仕事では、現場で実証的に考えるとともに、自分の感覚だけではなくクライアントを含め自分以外の人達の感覚がどうなのか、その差を埋めることをやっています。一番大切なのは必要な所に必要な光、適光適所ということなのです。

 

みんなの森 ぎふメディアコスモス(CG)
Jewel Changi Airport (CG)

 

これまでの経験を踏まえ、今後の照明デザインについてのお考えをお聞かせください。
 スマートオフィスや最高裁判所など、ハイテク建築と言われた建築の照明デザインにも関わりましたが、その頃から現在に至るまで建築照明デザインでは技術を駆使し、合理性を追求するような性能論に従った光の考え方があります。一方で、性能論だけですべての光が機能的に満たされていくのでは充足しない建築もたくさんあります。言葉で上手く説明するのは難しいですが、自然光の中にある不可思議な要素に性能論が寄り添っていくことが望ましいですし、私たちはそれを越えてみたいと思っています。

 

世界照明探偵団フォーラム
探偵団サロン

 

照明デザイナーの傍らで、啓蒙活動として照明探偵団の活動をされていますが、この組織の設立の経緯やこどもワークショップの活動についてお聞かせください。
 照明探偵団は私がLPAという会社を立ち上げた1990年に、当時の設立メンバーと夜街に出て、光環境の調査を始めたことがきっかけでできた団体です。鹿島出版会の『SD』にその活動内容を取り上げていただくことになり「照明探偵団」という特集号が出版されました。照明探偵団を立ち上げたときは私たち事務所のスタッフを中心にやっていましたが、大衆的なレベルで広げていくことが照明デザインの普及にも繋がり、照明を文化的に扱うには欠かせないということだと思い、1995年から一般向けのワークショップや連続シンポジウムを開催し、市民に開かれた探偵団というかたちをとりました。市民に開かれた活動としては20年になります。
 こどもワークショップのきっかけは、こども達にも早い段階で光や照明について考えるきっかけをつくりたいという思いでした。ワークショップでは、こども達にわかりやすく、ゲーム感覚で楽しく参加してもらえるようにする必要があります。こども達には、実際に街に出かけて自分達の見方を鍛え、様々な「光の事件」を探し、それらに○や×の意思表示をしてもらいます。ワークショップ最後のまとめでは各自の光の事件簿をつくって発表します。その光の良し悪しを明確にし、なぜそう思うのかを考えて皆で議論するのです。こども達の考えを聞くと、目からうろこが落ちるような新たな発見もあったりして、お互いに刺激的です。
 照明探偵団は活動をはじめて25年になります。LPAも設立して25年になるわけですが、今年展覧会を開催することになり、8月にベルリンで2ヶ月間、その後11月にシンガポールで開催し、来年1月に香港、そして最後は5月に集大成として東京で巡回展を開催します。世界中の人々が自分たちの都市の未来について発言するような企画や体感的な展示、「2050年の夜景」をテーマに光と人間と街はどのように未来を迎えるのかという問いかけをテーマにした内容です。

 

左右:街歩き
世界照明探偵団フォーラム

仕事の流儀をお聞かせください。
 照明デザイナーとしての立場で言えば、「自然光に学ぶ」ということです。光と影をより上手く扱うことでこんなにも日常が楽しいのかと思えるような社会にしていくことです。
 また、自分がニュートラルであることと、たくさんの人との議論や意見の違いみたいなものが衝突しながらも皆で耕していくという考えです。厳しく仲良くやるということが大切だと思います。

 

最後に、建築に望むこと、建築家に期待することについてお聞かせください。
 私は建築設計という仕事は崇高な仕事だと思っています。建築家は全てのデザイナーの要であるし、建築は文化の源泉だと思っています。私たちは建築家とコラボレーションして仕事をさせてもらえるのはとても名誉なことで、より良い仕事ができるように建築家には光に対する意識をより高めていただいて「光は素材である」と言ってほしいと願っています。

 

キャンドルナイト
こどもワークショップ

 

 

面出 薫 Kaoru Mende

照明デザイナー
株式会社 ライティング プランナーズ アソシエーツ
代表取締役
武蔵野美術大学客員教授

1950年、東京生まれ。東京芸術大学大学院修士課程を修了。住宅照明から建築照明、都市・環境照明の分野まで幅広い照明デザインのプロデューサー、プランナーとして活躍するかたわら、市民参加の照明文化研究会「照明探偵団」を組織し、団長として精力的に活動を展開中。
東京国際フォーラム、JR京都駅、せんだいメディアテーク、六本木ヒルズ、シンガポール中心市街地照明マスタープラン、JR東京駅丸の内駅舎復原ライトアップなどの照明計画を担当。国際照明デザイン大賞、日本文化デザイン賞、毎日デザイン賞などを受賞。
現在、武蔵野美術大学客員教授。日本建築学会、北米照明学会、日本デザインコミッティなどの会員。著書に『世界照明探偵団』鹿島出版会、『都市と建築の照明デザイン』六耀社、『陰影のデザイン』六耀社、『光のゼミナール』鹿島出版会、『LPA1990-2015』六耀社など。

 

ライティングプランナーズアソシエーツ
http://www.lighting.co.jp/
照明探偵団
http://shomei-tanteidan.org/
※全ての写真・画像提供:株式会社 ライティング プランナーズ アソシエーツ

 

 


LPA 1995-2015
建築照明デザインの潮流
株式会社 六耀社 発行
(発売日 6月25日)

 

〈聞き手:八田雅章・市村宏文・杉山英知〉

 

 

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