JIA Bulletin 2008年8月号/建築に関わる法改正
建築基準法、士法改正に伴う
業務報酬の見直し作業に参加して
日本大学文理学部心理学科教授 羽生 和紀 氏
大宇根 弘司

 私は2007年4月13日(第1回)から同年12月12日(第6回)にわたって開かれた国交省の業務報酬基準・工事監理小委員会にJIAからの委員として出席しました。この小委員会は姉歯事件をふまえ、建築設計事務所の「業務報酬基準の見直し」、「工事監理の適正化」、「建築士事務所が加入する設計賠償責任保険の充実」を議論し、望ましい方向づけをしようというものです。
 私はその第1回委員会では2003年12月にJIA業務委員会がまとめた「建築家の業務・報酬に関する実態調査アンケート」の結果をもとに、現況の設計監理料が1206号と乖離していて、ひどい実態であることを説明しました。第2回では同じくJIA業務委員会が作製した「建築家の業務・報酬」をもとに業務の内容を説明しました。士会、事務所協会、JSCAなどの団体からの代表もそれぞれの立場で状況を説明し主張しました。結果として業務量の略算表を見直すにあたり、今までの建物の4分類を16分類とすること、さらに意匠・構造・設備の実情に合った補正を行なえるようにすること、すなわち簡単なもの・普通のもの・高度なものに分けること、工事費の別によるのでなく床面積の別に改める方が実情に合うとの主張があり、それも考慮すること、意匠・構造・設備およびそれらを統括する業務に区分すること、その上でそれぞれどれくらいの業務量になっているか調査をするということとなりました。また標準業務と追加業務についてもその内容をはっきりさせようという方向づけもなされました。工事監理については、◎建築士法で定める工事監理業務 ◎工事監理業務に付随するその他の業務(建築工事の契約に関する事務および指導監督)◎工事施工段階で行なうことに合理性がある設計業務という三つの業務があり、それぞれについて調査するということになりました。
 この方向づけにもとづいてこの春アンケート調査が行なわれ、目下そのとりまとめが行なわれているのではないかと推測されます。その結果が出次第、新しい業務報酬基準の略算表が提示されることになるはずです。それが私達の望んでいるものになるかどうか。この議論の中で、現行の告示1206号でもその意図するところが大略実行されていればそれほど問題はないと思われるので、実効性の担保こそ課題であると私も主張しましたし他の委員の中にも同じ主張をされる方がいました。国交省はそれに対し基準は作れても実行するかどうかは契約当事者間の問題であり、そこまで立ち入れないということでした。もしそうであればどんな立派な略算表が出来ても、またまた水泡に帰す恐れがあります。したがって、今までもそうしてきたように、あるいはそれ以上に、最低限告示1206号の水準は実施せよと発注者側に強くキャンペーンをする必要があるでしょう。
 さて、私はこの委員会の議論に参加して次のようなことを感じました。
 設計監理料の根拠を市民あるいは発注者に提示する必要がある、そのために設計や工事監理の業務を定性的にも定量的にも分かりやすいものにしようという作業であったわけです。ところが、業務を分かり易くするために細かく分けて行けば行くほど、私の実感とは離れてゆきます。
 今建築家の仕事は構造や設備を始めとする諸専門資格者の作業を統括する業務である、したがって士法の中に統括建築士を位置づけよという主張がありますが、本当にそうかという疑問があってここでも異和感を拭えないのです。それは何故か。私達の仕事、すなわち設計監理という業務は、人間の最も身近な環境を「創出」するという作業です。専門資格者が役割分担をして作業をし、それを統括すると建築の設計が出来るということとは違うのではないか、と私は「感じる」のです。設計という作業は分からない結果を求めて、もがいて、もがいて、やっと一条の光を見つけ、その周辺を掘り返すと運が良ければ結論らしきものに到達する、運が悪ければまたそれを繰り返すしかない作業です。もちろん協力を得られる専門家にもその作業に加わってもらって悪戦苦闘を一緒になってやる、一蓮托生の間柄です。現実には締切りがあって、その最後の時まで、時間を忘れて頑張って、その結果が建築になるということになります。この場合の設計監理料はそういう人間の営みの総体への評価として呈示されるべきではないか。だからこそ設計料入札はなじまないのです。
 工事監理の議論の中ではもっと現実的で深刻な問題に直面しました。その一つは現行では設計が必ずしも充全には行なわれていないため、工事監理の段階で設計行為が行なわれていて、現場で混乱が生じているということを前提に議論が進められました。建築家(士)は設計図書作製において怠慢があるという不信が根強いのです。第三者監理問題の折も指摘されており、私達と議論が咬み合わなかったのですが、この不信感を取り除くにはどうすれば良いか。
 工事段階でも設計行為は続くのだとする私の主張はそのようなことと関係して理解してもらうことが大変難しかったのです。報告書の中に「工事施工段階で行なうことに合理性がある設計業務」という一文を入れてもらうということが精一杯だったことを皆さんに知ってもらいたいと思います。
 設計環境の改善という威勢のいい声が聞えてきますが、今までの苦渋に満ちた努力や現実とどう向き合うか、具体的方策を示して欲しいと切実に思います。

〈(株)大宇根建築設計事務所〉