JIA Bulletin 2008年6月号/COLONNADE 特 集
ESDに答える「ものづくり」、「人づくり」
―― 「建築と子供たち」ネットワーク教育活動をベースに
古澤 良彰
古澤 良彰 氏

ESDを支える地域教育力と建築家の役割
 ESD (Education for Sustainable Development) は、2002年ヨハネスブルグ・サミットで日本が提唱し、同年第57 回国連総会採択、2005 年ESDの10 年がスタートした。この「持続可能な開発のための教育」は、今を生きる人類にとって必修課題であり、人が変わり、地域が変わり、未来を変える新たな学びあいが重要となる。その学びあいは、人であり、対象は地球環境(自然環境と人工環境)となる。また、この教育を進めるためには、学びを案内したり(インタープリター)、学びあい(シェアリング)に導いたりするファシリテーターや、コーディネーターとしての人材が必要であり、その地域の教育力が大きく関わってくる。
 地域の教育には、家庭教育や社会教育があり、学校教育などがある。特に環境教育においては、すべての生活者がそれぞれに生活場面において進められる必要性がある。また、これらの教育は、地域の教育資源(ローカルリソース)をより有効に活用することにより、確かな、生きて働く学力を育てることができる。この地域の教育資源には、地域の自然があり、街や施設があり、人材がある。
 学校教育においても、教育計画は学校にあってもそれがより効果的に進められるためには、ローカルリソースの有効な活用が欠かせない。そこで、学校や地域における環境教育やものづくり教育についてみると、その地域の建築家は、実に優れた人材であり教育支援者である。建築学は、自然環境や人工環境をベースに、地域の生活、文化、科学技術や材料工学、さらに芸術領域も含めて、総合的な教育機能を持つ。この建築学のグローバルに、あるいはローカルに一般化できる機能と、より具体的なものづくり技術が、調和の取れた教育プランと合体することにより、地域における強力なESDの推進力となりうる。
 教育は人づくりであり、中でもものづくり学習は、自
然やものに自ら働きかけ、プラン、実行(製作・栽培など)、まとめ・プレゼンテーション・評価などの過程を通して感性や知的気づき、技術を育てる効果的な教育領域・システムである。特に低学年児童のものづくり活動は、右脳・左脳の調和的発達や、創造性の育成、働くことの喜びや他との共感性・貢献性などの育成に大きく役立つ。学校は、地域の教育力を有効に生かして、ものづくり・人づくりを進め、ESDの目指す地域づくりにつなげたいものである。そこで、地域において活動する建築家集団は、かけがえのないものづくり・環境学習応援隊であり、積極的に地域教育にかかわることを期待する。

「建築と子供たち」教育プログラム
 筆者は、国・公立小中学校教職、教育行政などを経験し、現在は、環境NPO、NGO、エコビジネス企業経営の傍ら、産業教育・環境教育学会などに所属している。1990年代の小学校経営時には、Architecture and Children Learning by Design について地域の建築士、大学および日米ネットワークスタッフと連携し、組織的に取り組んだ経験がある。
「建築と子供たち」は、19世紀末次世代の教育を志向し、建築学の機能を生かしたアメリカの「Architecture and Children」の教育理論と方法である。(ニューメキシコ州立大学建築・都市計画部・同環境教育研究所長アン・テーラー博士、アメリカ建築財団常任理事・建築教育担当、フロリダ州教育委員会・環境教育長・学校教育プログラム開発担当アラン・サンドラー博士らが中心となって開発した当時斬新な教育プログラムであり、これからの教育にも大きく役立つものと考えている。)
 20世紀末、急激に変化し始めた地球環境問題、それに対応して、学校教育にも環境教育の必要性が生じてきた。また、人類の築いてきた文化は、全人類の宝であり、自然保全や快適環境の街づくりや建造物保全も人類共通の課題である。当時アメリカでは、いろいろな分野の専門家がボランティアとして学校教育に協力する体制が整いつつあった。建築家も例外ではなく学校や校外学習に多く活躍していた。その発展として、アメリカの建築家協会では、子供たちの個性的で創造的な学力を伸ばす総合学習の方法論を追及し、建築の持つ科学と芸術の総合性を生かし、さらに環境教育の観点から内容を見直して、
“Learning by Design”のカリキュラムを開発し、“Architecture and Children”としてアウトプットしたものである。


小学校4年生の街づくり模型
(グループで作った模型の集合)

 1992 年シアトル・ワシントン大学、東京都、仙台市、新潟市において「建築と子供たち」日米セミナーを開催、
1993年6月ニューメキシコ大学「建築と子供たち」国際サミット、7月日本、1993年シアトルと継続して研修し、日本においても共立女子大学助教授・日本建築学会教育委員稲葉武司氏が中心となり広がりを見せた。しかし、会員の高齢化」などもあり、仙台市の活発な活動や新潟市以外はやや弱体化が心配されている。
 上越市においては、筆者が中心となり、1993〜1996年の間、小学4年生対象に週1校時の特設授業を開設したり、各学年の総合学習に取り入れたりして、いま「学校からの環境教育I、II」にまとめ、発表会も開催された。



「建築と子供たち」実践例とその後

 アメリカのプランを自校化し継続的な授業や総合学習、課外活動を試みた。また、一般市民のための親子学習として、タウンウォッチングや、ものづくり学習講座、環境学習応援隊による学校・子ども会など出前講座などを継続実施している。
 上越市立大和小学校4年生が課外特設学習として過去に取り組んだプログラムの事例の一部を紹介するが、その目的は「子供たちの美的感性や実践的な問題解決能力、創造性の育成、健康的で住みよい生活環境づくりの基礎を養う」などである。
 主な内容としては、(1)スキーマティック・ドローイングの練習 (2)描画の基本と基礎練習(精密描写、略画、イメージ表現など)(3)ビニールハウスの設計と組み立て、その活用(トマト、メロン栽培)(4)見取り図、平面図 (5)条件や、自分の思いの図形を求める (6)構想と表現 (7)小鳥の巣箱の設計制作など。学習の結果としては、対象は4年生であったが、この時期は、空間感覚発達の目覚しいときであり、期待以上の成長が見られた。これは、文部科学省が、現在教育課程「ものづくり科」開発研究
校の推進に繋がるものと考えられる。
「建築と子供たち」ネットワーク上越の現在は、イベント的に新聞紙ドームの作成、折り紙建築実習、おもちゃ箱アート・ダンボールアート、針金アートなどの体験講座、親と子の町並みや環境ウォッチングなど、また、他のNPO活動「エネルギー環境教育出前講座」と組みながら活動を続けている。例としては、断熱材や、遮熱材の効果、エコハウスの工夫、省エネの光源や換気、結露対策など学習課題は多い。
 現在は、企業とともに専門家も社会的価値と責任において自発的に地域づくりや、社会教育・学校教育にかかわり貢献すべき時代であると考える。


ものづくり支援活動

ビニールハウスの組み立て構造と
強さを考えながら

ビニールハウスの組み立てと
栽培したメロン


〈環境省登録環境カウンセラー/上越教育大学非常勤講師/「建築と子供たち」ネットワーク上越代表〉