5-2.性能評価の結果(剥離に対する安全性に関する評価)
 エバーガード工法により被覆された外装タイル張り仕上層には、自重、風圧力、地震による慣性力による外力が加わる。本項では、このような外力に対するエバーガード工法の安全性検討を行なう。
5-2-1 外力の計算
(1)自重
(2)風圧力
(3)地震による慣性力

(1)自重
外装タイル張り仕上層の重量を下記のように想定し算出する。


図5.2.1 外装タイル張り仕上層
1平方mあたりの体積は 
モルタル+タイル:1m×1m×0.040m=0.040立方m
エバーガード工法:1m×1m×0.001m=0.001立方m
エバーガードの比重を1.0、その他の比重を2.2とすると1平方mあたりの
質量は次のように算出される。
(0.04立方m×2.2+0.001立方m×1.0)× 103 =89kg/平方m
1平方mあたりの自重は873N/平方mとなる。


(2)風圧力
平成12年5月31日 建設省告示第1458号「屋根ふき材及び屋外に面する帳壁の風圧に対する構造耐力上の安全性を確かめるための構造計算の基準を定める件」に準じて風圧力(負圧)を算出する。
  下記の条件を代表例として算出する。

《設定条件》
高さ     :30m
地表面租度区分:U
基準風速   :46m/s

W =qCf         W  : 風圧力〔N/平方m〕   
              q  : 平均速度圧[N/平方m]
              Cf : ピーク風力係数      
q =0.6Er2Vo2     Vo : 基準風速〔m/s〕
Er=1.7(H/350)0.15     Er : 平均風速の鉛直分布係数
              H  : 高さ[m]

設定条件を代入すると以下の数値が導き出される。
q=0.6{ 1.7(30/350)0.15} 2 ×462
  =1,755.8N/平方m

一般部のピーク風力係数 Cf=1.8
隅角部のピーク風力係数 Cf=2.2
を用い算出すると下記の数値が導き出される。

<一般部>
W=1.8×1,755.8N/平方m
=3,160.4N/平方m

<隅角部>
W=2.2×1,755.8N/平方m
=3,862.8N/平方m

(3)地震による慣性力
高架水槽の設計指針においては設計用標準震度を通常1G(980gal)としている。
地震時において水平方向に1Gの加速度が繰り返しかかった場合、躯体とエバーガード工法により被覆された外装タイル張り仕上層間には図5.2.2のような相対加速度が発生する。

図5.2.2 水平方向に振動した時の躯体と外装タイル張り仕上層の動き

水平方向に発生する相対加速度が最大2G(≒2,000gal=20m/
s2)かかるとする。

下式より、水平方向に発生する1平方mあたりの慣性力(Q1)は次の通りとなる。なお、質量は「(1)自重」の数値を引用した。
慣性力F=m・a   m=質量  a=加速度

Q1=89kg/平方m×20m/s2 =1,780N/平方m


同様に地震時において垂直方向に0.5Gの加速度が繰り返しかかった場合、自重の1Gと合わせて躯体とエバーガード工法により被覆された外装タイル張り仕上層間には図4.5.3のような相対加速度が発生する。


図5.2.3 垂直方向に振動した時の躯体と外装タイル張り仕上層の動き

垂直方向に発生する相対加速度が最大
1.0G(≒1,000gal=10m/s2 )かかるとする。
下式より、垂直方向に発生する1平方mあたりの慣性力(Q2)は次の通りとなる。
Q2=89kg/平方m×10m/s2=890N/平方m

(4)算出した数値を表5.5.1にまとめた。
表5.2.4 アンカーピンの引抜耐力試験結果
自 重 風圧力
(隅角部)
地震による慣性力
Q1(水平) Q2(垂直)
3,863 1,780
873 890

5-2-2 付着力と外力の比較
風圧力によりエバーガード工法が外装タイル仕上面より剥離しないか安全性の評価を行なう。
「5-2-1 外壁複合改修工法のタイル下地との付着強度」、及び「5-4-1 外壁複合改修工法で一体化された外装タイル張り仕上げ層の温冷繰り返しに対する耐久性」で得られた付着強度を1平方mあたりに換算すると下記の通りになる。
初     期:1.5×106N/平方m > 3,863N/平方m(4-5-1より)
温冷繰り返し後:1.7×106N/平方m > 3,863N/平方m(  〃  )

以上のように付着力が風圧力の数値を大きく超える為、風圧力に対するエバーガード工法の外装タイル仕上面に対する付着力は十分といえる。

5-2-3 外力とアンカーピンの耐力の比較
(1)水平方向の外力に対する安全性
表5.5.1より、風圧力(W)は地震による慣性力(Q1)より大きい。
アンカーピンは1平方mあたり4本使用する為、
頭部保持力=1,777N(−3σ限界)×4本=7,108N/平方m

頭部保持力     風圧力(W)     慣性力(Q1)
7,108N/平方m  >  3,863N/平方m  >  1,780N/平方m

以上より、アンカーピンの頭部保持力は仮定条件による外力を上回る。

(2)垂直方向の外力に対する安全性
下記の通り「アンカーピンの単体せん断耐力」よりも「アンカーピンに接している仕上層の面強度」は小さい。

<アンカーピンに接している仕上層の面強度>
1平方mあたりの本数      = 4本
アンカーピンの径     = 6mm
外装タイル張り仕上層の厚み=40mm
仕上層の平均圧縮強度   =30N/平方mm

以上の条件を仮定すると、アンカーピンに接している仕上層の面強度は
面強度=4本/平方m×6mm×40mm×30N/平方mm
=28,800N/平方m

1平方mあたりの「アンカーピンの単体せん断力」は
単体せん断力=13,613N×4本/平方m=54,452N/平方m


単体せん断耐力     面強度     慣性力(Q2)
54,452N/平方m  >   28,800N/平方m  >  890N/平方m

以上より、アンカーピンに接している仕上層の面強度は仮定条件による外力を上回る。

5-2-4 まとめ
5-2-1から5-2-3の検討により、以下の結果が得られた。

(1)「水平方向の外力による剥落」に対するエバーガード工法の安全性
 「外装タイル仕上層とエバーガード工法の付着力」、及び「モルタルに対するアンカーピンの頭部の保持力」は風圧力を上回る。
従って、仮定条件内においてエバーガード工法は「水平方向の外力による剥落」に対する安全性を有する。
但し、図5.5.4、図5.5.5の通り、「モルタルに対するアンカーピンの頭部の保持力」のアンカーピン4本(1平方m分)を合計した数値を、風圧力が超えた場合はアンカーピンの本数を増やす必要がある。


表5.2.5 地表面租度区分Uの一般部風圧力に対するアンカーピン
(1平方mあたり4本)の安全限界(基準風速別)



表5.2.6 地表面租度区分Uの隅角部風圧力に対するアンカーピン
(1平方mあたり4本)の安全限界(基準風速別)


(2)「垂直方向の外力による剥落」に対するエバーガード工法の安全性
 「アンカーピンに接している仕上層の面強度」は「地震時の慣性力」を上回る。
従って仮定条件内において、エバーガード工法は「垂直方向の外力による剥落」に対する安全性を有する。
但し、外装タイル張り仕上層の平均圧縮強度が0.93N/mm2を下回った場合は、施工を避ける必要がある。