JIA Bulletin 2015年1月号/覗いてみました他人の流儀

能楽師 長山桂三氏に聞く
「能/伝統芸能の継承と挑戦」

長山桂三 氏
長山桂三 氏
聞き手:広報委員

観世流能楽師(シテ方)の長山桂三さんに、舞台稽古場である青山の鉄仙会でお話を伺いました。

 

■子供の頃のこと、能との出会いについて。
 私の場合、父が能楽師ですので、物心付く前にはすでに能との出会いがありました。父は僕に対しては、積極的に能に関わらせるということはなく、子供時代は自由奔放に育ちました。小学生の頃は、能より勉強のほうが好きでしたし、塾に行ったり友達と普通に遊んだりしていました。でも、小学生の卒業文集には将来能楽師になると書いていたようです。

 

■能楽師になると決めた時期はいつごろですか。
 高校2年のときです。中学、高校ではほとんど能と接していなかったのですが、当時東京に出て内弟子で修行をしていた兄が舞台で初シテをやるというので、僕はあまり気が進まない中、親に連れられて見に行ったのですが、その舞台で感動してしまったのです。その時の兄の舞台を見たことがきっかけとなり、本格的に能を学び始めました。

 


能「船弁慶」静御前(長山桂三)

 

■父親があるときから師匠になるというのは、親子関係の切替はいかがでしたか。
 普通は、親子で師匠と弟子という関係になることを避け、親の兄弟とか、祖父とかに任せてしまうということが多いのですが、僕の場合は高校2年生以後の3年間を父から直接手ほどきを受けました。父の指導はあまり厳しくなく、割とやさしく教えてくれましたし、母親はいつもフォローし、励ましてくれていました。一方、息子へは、凛三はまだ子供ですが今からしっかりと教えていて、家内も含めて我が家では能が生活の一部になっています。

 


銕仙会能楽研修所

 

■能の流派の数、観世流能楽師の数はどのくらいいらっしゃいますか。
 流派は5流派あって、私が所属しております観世流が一番大きな流派です。
 観世流の能楽師は800〜1000人ですが、教えるのがメインの方もたくさんおられます。修行を積んで認められれば、誰でも能楽師になれます。まずは研修生になり、5年間かけて毎年経過を見ていく研修生制度があります。僕のように内弟子に入って住み込みで修行する人もいますが、能の世界に入りたいという若者は年々減ってきています。

 

■能の伝統と継承について、お考えをお聞かせください。
 能は役者だけ集まって演じても成立しませんので、お客様が見に来てくださることが一番大切なことだと思います。そのため、毎回、見に来てくださった方々にアンケートをしてご意見を伺い、それを反映させる舞台づくりをすることが重要だと思います。また、毎日どこかで能の公演があるので人気の役者さんは予約で込み合っている状況です。能は総合芸術なので、ですから、シテ方、ワキ方、囃子方と大局的に控えていますので、ご出演依頼は念密に致します。特に囃子方(楽器)などは1年半前くらいからご出演のお願いをしています。理想に描く公演をするために、諸先輩方より多大なご助力を賜われるよう心がけて備えています。
 さらに、来年から始める企画のお話しをしますと、若い世代の方々に能をアピールする企画として、若手の役者で揃えた若手ならではの舞台公演をこの場所でやろうと準備しています。演目についても、能を初めて見る人でもストーリーがわかるものを選んでアピールしようと思っています。

 


能「橋弁慶」
武蔵坊弁慶(長山桂三)・牛若丸(長山凜三)

 

■役者個人の人柄や立ち振る舞いは、舞台上の動きやしぐさなどにも影響しますか。
 先代の師匠からよく言われていたことですが、普段の生活が舞台にも現れるので、普段の生活には気をつけるように言われていました。楽屋のときからエレガントな先輩役者は普段の生活もエレガントな方です。人格は如実に舞台に現れますね。

 

■公演のプロモーションなどはどのようにされるのでしょうか。また、歌舞伎のようにプロモーターがついてくれるほうがいいとお考えですか。
 僕の場合は自主公演もやるので、その場合のプロモーションは自分でやっています。鉄仙会に所属している場合は鉄仙会主催の公演があって、日頃から十分に芸を磨いていればそれに出演させて頂けます。しかし、自分で公演を主催することは、それだけモチベーションがかなりあがりますし、やることで学ぶことも多いのです。
 また、プロモーターがついてくれればそれはとてもありがたいことですが、なかなかそのようにはいきません。私たちにもお弟子さんがいらして、お弟子さんが後援者になってささえて下さっている部分もあります。鉄仙会主催の公演では年に2回シテ方をやらせていただいていますが、若いときに場数を踏むことが重要だと思っています。

 

■能・狂言のような伝統芸能の公演は、一般の方には、いわゆる敷居が高いというような印象を持つ人もいるのではないかと思うのですが、能を見たことがない方でも気軽に見に来ていただきたいですか。
 今では敷居じゃなくて鴨居くらいの高さになってしまっていますが、もっと気軽に、身軽な服装でも結構ですので多くの人に見に来ていただきたいと思います。特にこの舞台ですと、演者との距離感がとても近いので息使いまでわかると思うので、迫力があると思います。

 

■能の見方について。
 何回か舞台を見ていると話の展開は自然に入ってくるようになりますが、能はすべてを理解しようと思って見るのは非常に困難です。役者でも全部の理解はなかなか難しいものがあります。お客さんには、全部理解しようとしないで、感性で感じてほしいと思います。そのような芸能だと思います。

 


趣味で習われているお弟子さん
お稽古風景「仕舞」

 

■最後に、今考えていることや今後の抱負ついてお聞かせください。
 僕も息子に伝えていって、息子がさらに息子に伝えていってという伝承が大切だと思います。また、父が使っているものもいずれ父から譲り受けるでしょうし、僕は祖父が使っていたものにも袖を通すとき嬉しい気持ちになりましたし、それは跡継ぎがいなければ必要なくなってしまいますから。息子には、能は厳しい世界だけれども楽しいこともたくさんあるんだよと伝え続けているので、彼も子供ながらにもそれはわかっているようです。
 また、継承だけではなく、一度しかない人生なので、来年から始める取り組みのように、新たな挑戦もこれから沢山していかなければいけないと常々考えて取り組んでいます。

 


桂諷會公演チラシ表

 

〈聞き手:広報委員 八田雅章・高橋隆博〉
※1 TOKYO SKYTREE 東京スカイツリー公認写真集 朝日新聞出版    2012年3月

 

 

■長山桂三(ながやま けいぞう)氏プロフィール

 

能楽師 観世流シテ方 銕仙会所属
(社)能楽協会会員、(社)銕仙会会員、桂諷會 主宰、桂諷会(長山桂三社中の会) 主宰。

1976年5月13日生まれ。兵庫県芦屋市出身。
四代続く、観世流シテ方長山禮三郎(重要無形文化財総合指定保持者)の次男。
故八世銕之亟師(人間国宝)、九世銕之丞師及び、父(長山禮三郎)に師事。
東京を中心に全国で演能に出演。積極的に講座等も企画し、能楽の普及に努める。パリ・ニューヨーク・ロシア・ウィーン・イギリス・韓国など海外公演や新作能、復曲能にも多数出演。
2008年11月24日より自主公演『桂諷會』を発足させる。
桂諷会(長山桂三 社中の会)を主宰し、東京(南青山、銀座)、神奈川県(たまプラーザ、小田原)、埼玉県(熊谷)、各地で愛好者の指導にあたる。
長山桂三HP http://www.keizou.net
来年度公演 http://www.keizou.net/livepage/2015/287/288/289

 

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