JIA Bulletin 2013年1月号/海外レポート

JIA 国際戦略とアルカシア
国際協調と国際事業展開への転換

芦原 太郎
日本建築家協会会長
芦原 太郎

 

UIA大会後のJIA国際戦略は、UIA東京宣言にうたわれた持続可能な社会実現に向けた国際協調推進と日本建築家の国際事業展開支援に向けた具体的活動展開を重点としたものに転換して行く必要がある。世界140カ国のネットワークとしてのUIA、アジア18カ国のネットワークとしてのアルカシア、二国間の友好協定締結国、アメリカ、韓国、タイ、モンゴル、中国等の国際ネットワークへの参加の意味合いは、友好の段階から国際協調活動や事業協力関係へと変化しつつある。またJIA本部国際委員会と支部・地域会との連携を強化して、一部会員の国際化から広く一般会員やとくに次世代の若い会員の国際化を推進することを目指している。

 

ARCASIA(Architects Regional Council ASIA:アジア建築家評議会)の第15回大会、第33回理事会は、2012年10月28日から11月2日まで、バリ島(インドネシア)のヌサ・ドゥアコンベンションセンターで開催された。ARCASIAは1967年にインド・スリランカ・パキスタン・マレーシア・シンガポール・香港によって設立され、その後マカオ・タイ・中国・韓国・バングラデシュ・インドネシア・日本・ネパール・フィリピン・モンゴル・ベトナム・ラオスが加わり、現在計18の加盟団体で構成されている。
2011、12年度は国広ジョージ氏が会長を務め、伊藤潤一会計責任者とマルコ・コルべラ書記長のJIAチームが運営に当たってきた。

 


 

アルカシア大会報告

佐野 吉彦
日本建築家協会国際委員長
佐野 吉彦

 

大会では、いくつかの講演を聴講することができた。開会式来臨のインドネシア共和国・観光クリエイティブエコノミー省のパンゲストゥ大臣が、これからのメガシティ等の課題への取り組みなどには、日本の先進事例を参考にしたいと述べていたのは印象的だった。また槇文彦氏の基調講演は日本語の文化的考察からモダニズム建築を解き明かす大変格調の高いものであった。UIA第4地区(アジア・オセアニア)の委員会には発言者として出席したが、さまざまな課題を手際よく共有した機会だった。日本から紹介した<次世代のための国際間インターンシップ交換プログラム>は関心を引いたと思う。また、ここでは、多くの古い友・新しい友と交歓することができたのはさらにうれしいものだった。また、大会恒例の多国籍ワークショップ「スチューデント・ジャンボリー」(UIA2011東京大会でも開催された企画)に参加する若いプロフェッショナルたちの眼の輝きも素敵なものがあった。

 

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槇氏を囲んで佐野国際委員長以下JIAメンバーの会

 

この組織はUIA(国際建築家連合)の下部組織でもなく、また政治的にデリケートな問題を調整する場でもない。むしろ建築家が社会のために活動するための共通課題に対して柔軟な連携を進めてゆく広場というべきものである。そこにおいて、建築家のプロフェッションをポジティブに位置づけること、人と人とをやわらかく結びつけることにおいては、国広ジョージ・アルカシア会長は適役であった。

 

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アルカシア18ヵ国の代表団

 


 

理事会報告

藤沼 傑
日本建築家協会国際委員
藤沼 傑

 

ARCASIA Council meeting(理事会)はARCASIAの最高議決機関で、JIAからは芦原会長と藤沼国際委員長代理とが出席した。オブザーバー参加したアフリカ建築家連盟(AUA) Omisore会長は本年5月にAUA、ヨーロッパ建築家理事会(ACE)、ARCASIAの3団体が国際的な協力について合意したタンジール合意書と、国際連合人間居住計画(UN HABITAT)とも協力合意して貧困層の居住改善について建築家の役割を強めていくという報告があった。
ARCASIAは3つの地域に分割されており、各地域からの報告があった。
Zone A(南アジア) CPD制度の導入が推進されており、既にバングラデシュでCPD制度が開始されパキスタンではCPD制度導入の検討を進めている。
Zone B(東南アジア) ASEAN国を中心に、建築家資格制度の相互認証制度を既に始めており、インドネシア、マレーシア、シンガポールでASEAN-ARCHITECTが約30人登録済みであり、公共建築の調達規則に現地建築家との共同作業を義務付けるよう運動している。シンガポールでは共通仕様書の作成を急いでおり、タイは建築家の確認が不要な建物規模を150平米から300平米に引き上げた。
ラオスでは建築家とエンジニアとが同じ団体に現在所属しているがアルカシア加盟を機会に分離するとのこと。
Zone C(東アジア) 親善サッカーやこの地域でのビエンナーレを開催し、相互交流を深めることが検討されている。マカオでは建築家制度が確立していないため、大型プロジェクトは全て外人が設計していることが問題となっている。韓国は建築家の登録制度KIRARBを発足させた。また2017年UIA大会準備を開始した。
第1日目の理事会の後、Friendship nightが開催された。18カ国・地域のすべてが、お国柄を表現したパフォーマンスが披露された。
アジアでは国が対立しているところがまだ多い中、このような国際的な交流の重要性を再認識した。

 

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理事会 JIA 代表団 芦原会長と藤沼国際委員

 

理事会の二日目は、各委員会からの報告があった。教育委員会(日本からは柳澤要氏が委員)からは、クロスボーダーアーキテクトを推進するため、教育機関の認証制度推進について報告があった。長期的にはARCASIA Architect制度の確立を目標としている。建築家資格委員会(日本からは和智信二郎氏が委員)からは、CPD制度を推進するため、ガイドラインを策定している。環境委員会(日本からは中村勉氏が委員)からはサステイナビリティーを評価する基本方針を策定しようとしている。本年度から始まった社会的責任(Social Responsibility)委員会(日本からは岡部則之氏、庫川尚益氏が委員)からは建築家の社会的責任についての力強いプレゼンテーションがあった。建築家の社会的責任問題は広範囲の内容を含む。例えば歴史的遺産の保存問題、災害対応、建築相談、貧困者住宅等。韓国では建物の維持管理に建築家が関与することが法制化された。先ずは、災害対応から始めることが合意され、ARCASIAの緊急災害支援制度を構築することが議論された。
最後に、次期ARCASIA会長が決定し来年1月から、国広ジョージ氏からマレーシアのTAN PEI ING氏に会長職が引き継がれることとなった。

 

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国広ジョージ アルカシア会長と
マレーシアの次期会長TAN PEIING氏
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ARCASIA 賞受賞者リスト


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