JIA Bulletin 2011年5月号/F O R U M 覗いて見ました「他人の流儀」
NOSIGNER氏に聞く
「デザインとは、人間が持っている本能的な編集能力」
芦原太郎氏 インタビュー風景
NOSIGNER氏  インタビュー風景
聞き手:Bulletin編集委員

どうしてNOSIGNER と名乗っているのでしょうか?

 

 NOSIGN(ノザイン) という言葉に気がついたのは、ちょうど事務所を開いた頃でした。デザインの語源を調べてみると、どうやらサインからきているらしいんですね。語源の意味では、「記号にする」つまり「形」を作ることがデザインだというのです。しかしそのデザインを「形にする」行為の前には、準備の段階がありますよね。そして、準備そのものが、自動的に「形」を作っていることが往々にしてあります。
 例えば、良いデザインを作ろうとしたら、膨大なリサーチの後に、形を超えた「うまくいく仕組み」を作ろうとしているんだと思うんですよ。その「うまくいく仕組み」が働いて、勝手にデザインになる。自然界のデザインは特にそうですよね。人の作るデザインも多くの場合そうではないでしょうか。例えば「コップ」というデザインをだれが最初に作ったのかは分からないのですが、何となく「コップ」が、僕らの中で定着していてこの形を得ているのは、この地球の重力によって、液体をこの形の中にとどめておけるということや、このくらいのサイズでないと手に持てないこと、また、口から飲むために有効な形状ということなど、様々な制約の中で研鑽され磨かれた背景が、この形を作っている。デザインとはたしかに形を定義することではあるのですが、その背景なくしては形を定義できないじゃないですか。そういった美しい背景を見つける人が、僕にとって理想的なデザイナーだったんです。
 それで事務所をはじめるにあたって、自分に課題を課すことにしたんですよ。自分が理想とする、「DESIGN」はどうやら「見えない背景」を踏まえたものであり、そのための言葉がない。そこで、見えない背景を表す言葉を作るために「NO-SIGN」から「NOSIGN(ノザイン)」という言葉を作りました。NOSIGN を作る人は「NOSIGNER」ということになるから、その名前からスタートすれば、そのヴィジョンから逃れられないわけです。それでNOSIGNERと名乗り、仕事を始めることにしました。

 

 

すごく勇気のある決断でしたね。なかなかできないことですよね。

 

 最初はNOSIGNER と名乗っていると、変な人だと思われたり、作品が良いものでないと批判を受けるのではないかという不安はありましたが、いや、今でも正直言うとあるのですが、NOSIGNER というのは、私のことであるというよりも、デザインに向かう哲学のことなんです。ですから、この事務所のことや、僕の職業がNOSIGNER なんですね。
 名前を名乗らないもう一つの理由としては、先程の例でいうと、コップを誰かが作ったと言えないということと同じように、私が作ったということよりも、そこに新しい領域が生まれることが楽しい。私にとってデザインは子供みたいなもので、私自身だとは思っていないんです。私が子供を語るよりも、デザインが自ら語るべきことだという思いがありますね。

 

 

Gravity pearl

新しい切り口で素材から開発したプロダクト。
「Gravity pearl 」は、磁力によって互いに引き寄せられる、引力を持った真珠。

 

 

そんなNOSIGNER さんの育った環境といったものをご紹介いただいてよろしいですか。どのような少年時代だったのでしょうか。

 

 小学校ぐらいのときには、プラモデルつくることが好きな子どもでした。勉強はそれほど好きというわけではありませんでしたが、自由研究が好きでした。あとは、遊び方を発見することや、物の新しい使い方を発見することが好きでしたね。父が建築士だったので、自然と建築に興味を持っていたんでしょうね。そのころから建築家になりたいと言っていました。

 

 

自らをデザイナーとして意識し始めたのはいつでしょうか?

 

 大学院のときに建築のワークショップで代表を務めたことがあり、「建築とは何か」という問いを真正面から向かい合ったのが一つのきっかけになりました。どうして建築なのかとか、何を持って建築とするのかとか、今までの建築の定義から発展していく次の道は何かという、建築に対して建築を問う状況を初めて迎えたんですね。
 その頃は、レム・コールハースとかMVRDV などのオランダの建築家が流行っていて、彼らのシステマチックでパズルゲームのような建築は、マクロでは成立するかもしれないけれど、人がどのように空間を感じるかといった、ミクロだけれど本質的な問いについては何も語られていないと私は考えたのです。そこで「体感」をテーマにワークショップを開催しました。
 その頃から、だんだんと私の興味は「すごく細かいところから建築を始められないか」という意識に移っていったわけです。通常は1/100の模型から建築を作ります、100/1くらいのミクロスケールから建築を作れないかといったことを、その頃考えていました。そうすると、だんだんと建築とデザインの境界がなくなっていくんですね。そこで他の分野のデザインの勉強を始めました。ワークショップのときも、「体感」というテーマに対して建築家の方々より照明や音などのデザイナーの方々に共感いただけたのは興味深かったですね。

 

 

「Rebirth」

オープンソースプロダクトとして製作したプロダクト。
「Rebirth」は、本物の卵の殻をつなぎ合わせて作られた照明。

 

ミクロ的なところからデザインを始めてマクロへと広げていくと、建築になり、その集合体が都市になっていくと思うのですが、どこまでが視野に入りますか?

 

 私は物の生成原理に興味があるので、小さいものと大きいものがスケールを超えて繋がっているフラクタルのような仕組みに興味があります。あとは、仕組みについて興味があります。たとえば、エネルギーのスマートグリッドのデザインでは、中央集権的にエネルギーが供給されていたものが、各家庭でエネルギーが作りだされるような取り組みが目指されています。こういう無形のデザインこそ、現代の都市計画なのではないかと思います。都市が成熟した後で、小さなきっかけのふるまいによって都市のエネルギー全体を再編集していく。例えばそんな仕組みを作ることに、デザイナーがかかわる事はできないだろうかと考えています。

 

 

建築と芸術の違いについては、どのようにお考えですか?

 

 芸術とデザイン、そして言語は似ています。芸術とデザインではコミュニケーションの質こそ違いますが、その両方が僕らの言語的能力に由来していると考えています。たとえば日本語と英語の違いを論ずることにあまり意味がないように、その枠をそろそろ意識しなくてもいい時代だと考えてます。

 

 

「WATERFUL」

香港で展示したインスタレーション。「WATERFUL」

 

 

デザイナーという職業は、一般の方には何をしているのか 分かりにくい職業ですよね。これは、建築家の悩みとも通 じるところがあると思うのですが、一般の方に対して受け 入れられるために実行していることがありますか?

 

 なるほど。僕はデザインの価値の大きさを理解しているつもりですが、その表現についてデザイナーや建築家は、私も含めて総じて上手くはない気がするんですよね。例えば、「建築家と家を建てると満足感が高い」ということを可視化するだけでも、市場には説得力がありそうです。それが困難になっている。「我々が何をできるのか」の表現がうまくいっていないからだと思うのですね。僕自身が気を付けていることといえば・・・何でしょうか。例えば、そのデザインがどういう効果をもたらすか、実効性があるかを、なるべくきちんと説明するようにしています。理由があり、平易に説明できることは、いいデザインの条件だと思います。解かりにくいものを解かりやすくすることは、デザインの本質の一つですから。
 建築家も含めて、デザイナーにとっては、そのデザインの効果を他の人たちに伝えるためのフレームを作ることは、効果のあるデザインを提供することとは別の軸でとても大事なことです。ブランディングも同じ。何を念頭にしてどういう活動をするのか、かつどういう効果を出すことができるかが、整然とひとつの物語に沿って周囲に見えていると、それは依頼主にとっては、頼みやすいですね。「何をしたか」だけでは不十分です。「何をどのように解決したか」など、そのプロセスがむしろコアなのだと思います。僕も反省するところがありますね。
 具体的には、たとえばウェブサイトでも、建築の写真やその建築のコンセプトについて語ることよりも、与条件についてきちんと語ってあげたり、あるいは、与条件の解決方法について語ってあげたりすることのほうが、一般の方に伝わるでしょうね。そういう理解の軸を作ってあげることはとっても大事なことだと思います。

 

 

良いものを作れば、自然に世間に受け入れられていくことだと思いますか?それとも受けいれられるような能動的行為が必要だとお考えですか?

 

 必要だと思いますね。能動的な行為は、同じような考えを別の領域で持っている人たちとの接点を作るということにつながるからです。そういう出会いから、デザイナーが思ってもいないようなデザインの可能性を感じられることがあります。私はデザインが持っている大きな可能性に対して、建築家もデザイナーもマイノリティーすぎるような気がしています。デザインはこんなに役に立てるのだということを、デザイナーは声高に言った方がいい。
 私は、自分を特定の分野のデザイナーとは思っていなくて、むしろそれらをつなぐ糊のように思っています。専門分化された領域の間をつなぎたい。他の建築家やデザイナーとも積極的にコラボレーションしていきたいと思っています。

 

 

仕事としては理解されにくい中で、どのような形で依頼に結び付いていますか?

 

 そうですね、紹介やリピーターのほかに、プレスで紹介されることによって依頼に結び付いているケースが多いですね。トータルにデザインをしている実績から、物のデザインだけではなくて、ブランドのアートディレクションや展示の什器など総合的に依頼されることも多いです。最初の依頼の段階では、何を作ってもらいたいのかも分かっていないけれど何とかしたいと言われることも多くあります。そういう状況そのものを預けていただくことは、私にとっては嬉しいことです。

 

 

今後のデザインの方向性を示すキーワードは何だとお考えでしょうか。

 

 グローバル、ローカル、サステイナブル、オープンソースの4つは気になっています。特にオープンソースに関しては既存の枠を壊していく様々な可能性を感じます。今の時代は、あまりにも専門分化されていて、それらをつなぐ軸を探すことが重要だと考えいています。オープンソースもその方法の一つですね。
 先程のアートかデザインかといった議論はもはや意味はなく、それらをどう融合させていくかということなのだと思います。今有る領域を再編集して割り振りなおす。国境の引きなおしみたいなことが現在起こり始めていると感じています。特にプロボノ(職能を生かしたボランティア活動)などを通した領域間の交流が成り立ち始めているので、今までの契約体系でない建築家のあり方だって今後はあり得ると思います。

 

 

〈聞き手:大川宗治 湯浅剛

 

■NOSIGNER 太刀川英輔 プロフィール

http://www.nosigner.com/
「見えない物をつくる職業」という意味をもつデザイン事務所NOSIGNER(ノザイナー)として活動。
社会的意義を踏まえたデザインを通し、空間、プロダクト、アートディレクションなど複数の領域において国際的にも高い評価を得ている。
NY ADC Young Guns 7、D&AD 賞など、受賞歴多数。
匿名で活動していたが、今回の震災を受けOLIVE PROJECT を立ち上げ、本名を明かしての活動を始めた。
http://www.olive-for.us/


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