JIA Bulletin 2010年9月号/F O R U M 覗いて見ました「他人の流儀」
野沢正光氏に「環境とこれからの住宅」を聞く 小山薫堂氏インタビュー風景
野沢正光氏  インタビュー風景
聞き手:Bulletin編集委員

 
■JIA環境建築賞の審査委員長を務め、5月には立川市役所新庁舎が完成するなど、環境建築に多方面で活躍されている建築家の野沢さんに、「環境」や「住宅」をテーマに、いろいろお話を伺ってきました。

野沢さんが「環境」を軸に建築や住宅の設計をはじめられたきっかけは何だったのでしょうか?

 

以前、大高正人さんの事務所にいました。大高さんの工法と形態が密に関わっている千葉の図書館などが好きでした。今でも、作られ方が明解な建築、例えば、木造が好きです。
また吉村順三さんの亀倉邸や脇田邸は温風による輻射床暖房が使われていて、断面図でみると、システムがとてもわかりやすい。これも作られ方の明解な例であると思います。
25年ほど前、奥村昭雄さんが、空気集熱型の住宅つくったのをきっかけに、勉強会ができて、5〜6年続きました。その中で奥村さんがアメダスの解析をし、気象データを使って温熱を計測するということをはじめて、それがOMソーラーの展開につながったんです。
OMという名前がなかった頃、阿品土谷病院を奥村さんと設計したのですが、理解あるクライアントのおかげで、大変おもしろい経験をしました。日射量のあるところでは相当なエネルギーを補え得ることを実感したわけです。
オンドルが韓国にあって、ライトが重力暖房を、そして吉村さんが石油温風床暖房をやって、と、そういう流れの中で、時代が自然エネルギーにむかった時に、ちょうど役割がまわってきたのかもしれないと感じています。

 

 

 

いまの日本の住宅の、問題や課題は何だとお考えでしょうか?

 

 まず「短寿命」だということでしょうか。数十年しか住めない家を、ローンを組んで建て、返済を終える頃には、家の価値はゼロになる。そういう徒労がもったいない。
最近は、次世代省エネ基準や、長期優良住宅などハードルがあがってきて、住宅の寿命が延びてきています。その一方で、子供の数が減っている。一人娘が一人息子と結婚すると、親の家が2軒あって1軒余る。そうなると家を建てたいという物欲から逃れて、直して使えばいいとか、古い家が素敵だというようなことになってくるのではないかと考えたりします。
 「既存住宅のOM化と断熱改修の実証研究」が環境省により採択されました。既存住宅を集熱型にするのは、あまり事例がなく、コストとCO2削減などの整理立てができれば、もう少し既存の改修につながるかなという気がしています。

 


OMソーラー(空気集熱型パッシブソーラー)と、木造ドミノ住宅について

 

 自然エネルギー利用で、性能がきちんと担保されているシステムは、OM以外にはないと言った人がいます。多くの人々にOMの考え方を知って欲しいですね。
 スケルトン・インフィル型のOMソーラー「木造ドミノ住宅」(25棟)では、坪50万という、ローコストのOMソーラー住宅でした。
外壁部分の他に布基礎も耐力壁もありませんから、改修時には風呂も動かせます。施工時のフローリング張りも安くなる、経済的にも熱環境的にも非常に合理的でした。冬期、無暖房で、曇天続きの2日でも、朝17度にしかならず。ダイレクトゲインもあるから25度になる日があるくらいです。
 以前は姿・形も大事だから、「このぐらいで十分じゃない」、というようなOMの使い方でしたが、ドミノは、金もないし最大限に工夫しなきゃだめだと、様々に考えました。その結果、OMに最も適した住宅になっていました。
 僕らが学生のときにハブラーケンというオランダの建築家が「サポート・インフィル」「オープンビルディングシステム」を提唱していて、それがドミノにつながったという感覚があります。人の考えることってそんなに突飛じゃなくて、何十年かぶりにやってみたことが、昔のどれかとつながっているようなことが、結構あるかもしれないですね。

 

 

熱交換換気システムについて

 

 これはヨーロッパのパッシブハウスでは必須なんですね。
外気が0度の場合、そのままそれを取り込むわけにはいかないのです。例えばドイツの熱交換換気システムですと、90%ほどを回収しますから、室内が20度、外が0度だとすれば、投入される外気は18度くらいに収まります。また地中熱利用のヒートポンプを介して、2度緩和させて20度にして戻せば、室温との差はないわけです。
 換気によって、排出される熱エネルギーは、暖房負荷の3割ぐらいを占めていますから、それが回収されれば、熱源そのものにもなり得るわけです。
 またこのシステムは、あちらこちらに新鮮空気をサプライし、同時に引き戻すことから、結果として住宅内の「熱搬送機」にもなっています。ダイレクトゲインで南の部屋だけ暖かい家に設置すれば、そこからもらってきた熱を北側の寒い部屋にまわすので、室温が一定になる。南が暑くて、北側が寒いという状態を、相当改善する可能性があるわけです。
 それから夜間、熱交換しないで外気導入をすることもできますから夏期には、一種の冷却装置としても機能します。
僕は、エアコンが必要な都市の住宅では、本当は必須でもいいんじゃないかと思っています。みんなが使えば、日本の熱交換型換気扇の性能も、もっと良くなるでしょうしね。

 

 

クールチューブなども含め、地熱利用はいかがでしょうか?

 

 土中、特に5、6mから下は、その土地の年間平均外気温とほぼ同じです。東京だと土中深くは、夏も冬も15度程度と一定です。これは膨大な熱源ですから少しくみ上げても、何の影響もないはずでしょう。地中熱利用ヒートポンプシステムは、もっと普及して欲しい技術でしょう。ただくみあげる方法が難しいし、現状では装置も高くなるのです。
 僕の自宅には7割くらい潜っている素掘りの地下室がありますが、夏でも20度くらい。湿度と結露の対策だけすれば、半地下とか地下室の快適さは、ものすごく利用可能だと感じますね。でも二重壁にしてしまうと、土中の温度が、その二重壁の中に閉じ込められてしまうので、除湿対策を施した地下室が、地熱利用には一番いいと思いますね。

 

 

 

建築家は環境に関して、どう対応していくべきでしょうか?


 まず膨大な自然エネルギーについて、建築家は認識しておくことが大事です。例えば、西日が差し込む大きなガラス窓は、中で冷房したら温度差でひずんで割れたりする。外部からのエネルギーがすごく大きいわけです。まず建築がその問題にちゃんと対応していることが重要です。
 設計を進めていく上では、協力してくれるエンジニアがいればいいのですが、建物の気密や熱的性能についての勉強会に出てみたり、ソフトを自分でころがして、どのくらいのエネルギー投入で、どうなるかくらいのことを、楽しみながら手の内のものにしておくことは大事だと思いますね。構造が科学的な領域で、建築をよりよい物にしてくれるのと同様に、環境技術も科学的な領域であって、ちゃんと対応していけば、建築が一定の性能を持つことになります。そういう応答が最低限必要でしょうね。

 

 

今後はどのような建築・住宅の設計に取り組まれていきたいとお考えでしょうか?


 子供の頃は、船の中や、いろんな機械の中が解剖図みたいにかいてある雑誌を一生懸命見ていました。その延長で、やっぱり建築の架構やしくみがわかりやすいものを造りたいですね。
また、モダニズムがミースの言う「レス・イズ・モア」だとすると、「レス・アンド・モア」、より少ない投入量で、より快適な場所をつくることに興味があります。構造で言えば材料が少ないとか、スパンが飛んでるとか合理から離れれば落ちる。「橋」はまさにそうですよね。
この話は、より少ないエネルギー投入量で、より豊か、より快適な場所をつくるという設備や環境の領域に、そのままつながっていくわけです。構造的な架構が建築を決めることは今ももちろんありますが、今後は、環境や気候条件、室内気候をどうつくるかといったことから、建築にアプローチしていくことがもっと重要なこととなるはずです。社会的にも、造るときの問題よりも、造った後の運用段階で、どのくらいこの建物は「負荷がない=レス」なのか、その結果「いかに快適=モア」なのか、というようなことが問われるわけですから。
そういったことから建築が、説得力のある独創的な姿に変貌する可能性があると思ってます。
 過去の習慣があって、なかなか変な格好のものはつくれないでしょうけどね。あのドミノの屋根の上に45度の集熱屋根を乗っけただけで紛糾するわけです。なんで屋根の上にあんなもんが乗ってるのかって。習慣的に持っている、こうでなければならない、みたいなものが私達の中にあるのでしょうね。
だから僕ら自身が、その辺から自由になって、ある根拠を見つけられれば、その根拠が指し示す姿がやはり良いのだという、説得が少しづつ可能になると思いますね。

 

 

これからの住宅設計において、建築家が担う役割とは?


やっぱり建築家は個人次第じゃないでしょうか。個人個人の興味の中で、それが突き詰められれば、多分それは独創的な個性になって、そこにはちゃんとそれがほしいという建主が、きっといると思いますね。だけどマーケティングで仕事をしちゃ多分だめでしょう。こういう領域が今良いらしいよ、って近づいていったらすでに遅いみたいな、そこには必ず先に進んでる人がいますからね。
 みんな少しづつ「変な建築家」になったらいいと思います。自分のやれることを誠実に飽きずにやる。手足をしばって考えるみたいな自制的なことが世の中に蔓延している中で、自分が好きな方向に、もそもそ行ってみようという努力が大事だと思います。なるべく自縄自縛を解くことが大事かなと感じています。

 

 

建築家の中には、環境問題に関して、あまり向き合っていない人もいるような気がします。


 そうかもしれないけど、僕はある種の確信犯的な人はとても大事だと思いますよ。
ジョンソンのガラスの家だって、零下10℃以下になるようなところだから、住めたものではないわけでしょう。でもあの家がマスターピース、歴史的住宅だということは間違いない。この家には床と天井にヒーターが入っていて、客がかえったら電気をOFFにして、ニューヨークの自宅に帰る。茶室みたいなもの。そうであったらあれでいい訳です。
建築家は、将来こういう家が現れるのではないかと、先取りして造ってみたいという思いが必ずある。だからそれをつまらないとは言う気は当然ないです。もし説明が可能なら、いろいろな試みが許されていいわけです。
 建築になにができるか、建築家がなにができる自分自身になり得たか、という意味では、一番先頭を走ることは、たいへんだろうけど、それは実に意味のあることですよ。自在に発想し考え手足を縛られない仕事のしかたができるといいですね。

 

 

 緊張する我々に対して、気さくに、また楽しげにお話をしていただいた野沢さん。終始笑いの絶えないインタビューとなりましたが、若手建築家には、いろいろ示唆に富んだお話を伺えたように思います。

〈聞き手:湯浅剛・市村宏文・大川宗治

MADO-mado夕景:photo michiho
むさしのiタウン 木造ドミノ住宅 25棟
 
S-Corridor中庭:photo sasaki
相模原の住宅 断面図

 

 
■野沢正光 (のざわ まさみつ)氏(JIA会員) プロフィール

1944年 東京都生まれ
1969年 東京藝術大学美術学部建築学科卒業
1969年 大高建築設計事務所入所
1974年 野沢正光建築工房設立
現在、武蔵野美術大学客員教授、東京藝術大学美術学部建築科・横浜国立大学工学部非常勤講師、他
●主な受賞
「阿品土谷病院(87)」省エネルギー建築賞・建設大臣賞、空調学会賞、病院建築賞
「いわむらかずお絵本の丘美術館(98)」優良木造施設推奨審査優秀賞、木材活用コンクール最優秀賞・林野庁長官賞、JIA環境建築賞・最優秀賞、木の建築賞
「木造ドミノ住宅」(07)で、ecobuild賞 エコビルド大賞、
地域住宅計画賞(すまいづくり部門)、グッドデザイン賞
● 主な著書
「環境と共生する建築」「居住のための建築を考える」(建築資料研究社)
「住宅は骨と皮とマシンからできている」「パッシブハウスはゼロエネルギー住宅」(農文協)など


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