JIA Bulletin 2009年6月号/ F O R U M 覗いて見ました「他人の流儀」
藤江和子さんに 「建築家とのコラボレーション」について聞く 古池 廣行
藤江和子氏インタビュー風景

■建築家とのコラボレーションを通して独特の家具デザインをはじめ、カテゴリーを超えたオリジナルな世界を構築しながら建築と人と家具の新しいあり様を提案しつづけている藤江和子氏に、その独創的なお仕事について伺ってきました。

■これまでの歩み

――建築界にはいられたきっかけと、家具デザイナーを目指された経緯について教えて下さい。

もともと書・絵など芸術系が好きで、高校時代は絵を描いていました。美術短大へ進学するにあたって、ファインアートではなく職業として家具のデザイナーを目指そうと思いました。ちょうど時代は高度経済成長と共に東京オリンピックから万博へと世の中が非常に〈デザイン〉に向いて動いていた良い時代でした。卒業後、宮脇檀建築研究室へ就職しインテリアセクションに配属され、BOXシリーズなどのインテリア計画を担当していました。そこではその他、住宅雑誌記事の編集なども担当していました。3年間勤めてエンドウプランニングへ移りました。エンドウプランニングに移籍したのは、エンドウさんのところは設計室の他に工場をもっていたからです。家具製作の現場、つまりものをつくるリアルな現場が見れると思ったのです。そこでは主に間仕切システム家具の開発に携わりました。

――具体的にはどのようなお仕事をされたのですか?

エンドウプランニングでは子供の家具もやっていて、それに相当関わりました。その時に子供の視点で空間を見ること、子供が使う環境を考えることを経験しました。そういうところでスケール感とか身体感覚などを身につけたと思います。かたちや材質によって子供の行動や感情が変わるのです。どうやってアクションを呼び起こすかとか、どうやったら楽しいか、そういうことをかなりやっていました。コンペティションなどにも出したりしていました。でも子供にこびるようなことは一切やってなかったですね。むしろ、そこに構法をどういれていくのかとか、また、ちょっとしたアクションで環境が大きく変わるとか、空間感覚が変わるとか、そんなことを模索してやっていました。今思えば、これが現在ものを作る上でとても役立っているというか、非常に良い経験、大きな影響になっていると思います。使う側の視点、体験する人の視点というのでしょうか。いかに子供になるというか、いかに使う側の気持ちになるか。それを大人に置き換えていけば……。いつも上からものを見ていたらそういうデザインはできないということを学びました。

■建築家とのコラボレーションについて

――建築家とのお仕事はどのように進められるのでしょうか?  

依頼はたいてい実施設計が始まった頃にいただくことが多いです。建築事業としてある程度見えた段階です。建築家が実施設計を通して空間を固めていく過程で建築と関わりながら、何か提案できるところを探す―これが私の仕事だと考えています。
 建築家とのコラボレーションにおいてまず行なうことは空間イメージの共有化です。図面を読み込んで空間を理解するところから始めます。空間イメージの共有に関しては、様々なコミュニケーションを要します。「かたち」以外のところに大きな時間とエネルギーを費やすことも多いですね。要するに理解することが大切です。初めての方とのコラボレーションの時には、今までどういう建築を造ってこられた方かなというのは資料の中で見ますが、あまり特別なことはしませんね。建築だってプロジェクトによってみんな変わるわけだから進め方も変わってくる。ですから私共の家具の仕事は、自ら請け負うショップインテリアなどの仕事とはまったく違いますね。立ち位置とか、関わりあうところとか、スピードとか。ものによっては3年も4年もかかることもあります。たぶんリズム感が違いますね。

――建築家にはいろいろなタイプの方がいらっしゃいますが、その中でどのようにご自分の色を出されていかれるのでしょうか?  
 
  基本的に私はどんな仕事でも受けることにしています。ケースバイケースだから何とも言えないけれども、要するに関わるということは、そのことによって一つでも二つでも一歩でも良い意味に展開していかなければいけないわけで、どういうアプローチをその建築家がされている方であろうが、何か提案できることがないだろうかと常に考えながら関わっています。

■デザインの手法

――最初にインスピレーションが浮かばれるのでしょうか? かたちというのは最後ですね。

  もちろん建築計画の内容を理解しながらやりますから。見えないところでたくさん時間を費やしますね。いつもはじめからこのようなかたち……というのがあるのではありません。作業を進めていくうちにかたちやテーマが浮かび上がってくるのです。建築との関係、空間の使われ方をイメージしてかたちを考えていきます。いつも模型でエスキスを繰り返すのですが、模型が発想の手段でしょうか。

――くじらシリーズが生まれた経緯についてお聞かせください。

  実はくじらの第一号ができたときには、その空間の使われ方として、人の動きが非常に複雑なスペースだったということがありました。動線を整理していろいろ考えていると、流線型のかたちがでてきたのです。空間が非常に整然としていて、そこに少しニュアンスの違うものがほしいということで、そうすると不定形なものがいいなあと。けれどもそれを家具というものとしてつくるということは物理的技術的にとても難しい、三次元の曲面で。それで模型を板を集めて作っていったのです。そして生まれたものなのです。
  以前、「椅子の断面」というエッセーを書きましたが、椅子というものの本来の姿というのは座るところがあって、もうそれでいいわけで、それを断面形にして繋げていった、というのがくじらの発想のもとです。要するに、ひとつの単位があってそれを集めていったわけです。

――家具について「インターフェース」という表現をよくお使いになりますが……。

  家具というのは人間が空間に関わる際のある種の手がかりとなるものと考えています。私たちは大きな空間に行った時、例えば初めてロビーなどのすごく大きな空間に行ったとしますよね、そういう時ってみんな一瞬とまどってしまいがちですが、そういう時のある種の手がかりとなるもの、そういうものの一部だと思っています。家具もテーブルや椅子だけじゃないわけですから。要するに、建築と私たちの間に存在するもの。だからインターフェースといっているわけです。その両方を調停するものとして存在している。つながったり離れたり。スケール感しかり、質感もそう。そこにあるべきものっていうか、そういうことも含めての話ですよね。それはスケールとかかたちだとかいう問題を超えているものがあると思っています。

――後進の建築家・デザイナーに伝えたいことは?  

  誠実によく考えることが大切。目一杯、深くよく考えることです。「選ぶ、アセンブルする」のではなく、「創造する」ということが重要なのです。そこにオリジナリティが生まれ、デザイナーの存在の意義があるのだと思っています。このことは平素から強く意識する必要があるのではないでしょうか。

――最後に、これからの抱負についてお聞かせください。

 新しい建築に出会い続けたいですね。とくに若い人とコラボレーショしたいですね。これまでもずっと自分を開放してきたつもりです。これからもそのような自分でいたいと思います。



■「旅が大好き」という藤江氏。その理由は「見たことがないものに出会えて、新鮮な体験ができるから……」とのこと。「旅の場所はどこでもいい。わくわくできるところなら特に指定はしない」というお答えからも伺えるように、本当に好奇心旺盛な藤江氏。常に新しい自分を発見しながら、自分を更新し続け、仕事に挑むエネルギッシュな姿勢。そのしなやかさとたおやかさこそが、美しく力強い造形を生み出す原動力なのだと、改めて感じました。  



慶應義塾大学三田図書館
慶應義塾大学三田図書館/1982
[撮影:白鳥美雄]
多摩美術大学新図書館
多摩美術大学新図書館/2007
[撮影:浅川敏]


藤江 和子 氏 経歴

株式会社藤江和子アトリエ代表。
富山県生まれ、宮脇檀建築研究室、エンドウプランニングを経て、1977フジエアトリエ、1987株式会社 藤江和子アトリエ設立。
現在 多摩美術大学客員教授、東京大学、長岡造形大学、広島工業大学非常勤講師

受賞:1989日本インテリアデザイナー協会 協会賞

1996インテリアプランニング賞
1996建設大臣賞、JID賞
1996インテリアスペース部門 部門賞
2005日本建築美術工芸協会 第15回AACA賞本賞

藤江和子

聞き手:Bulletin編集委員


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