トップページ > 大会委員長より

大会委員長より

室伏 次郎大会委員長

昨年の秋、世界建築家大会UIA2011TOKYOが開催されました。折しも東日本大震災、巨大津波、原発事故にみまわれて世界中の関係者から開催が危ぶまれましたが、皆様の多大なご努力のおかげをもって無事成功裡に終えることができました。大会の重要なパートをになったJIAでありましたが、ここに改めて皆様に厚く御礼申し上げます。

さて、その折にブータン首相ジグメ・ティンレーさんによる基調講演が行われ世界中から参画された人々に等しく深い感銘を与え、忘れがたい印象を残された事は皆様ご記憶のことと思います。

「持続可能で幸福な社会の為の建築」と題された演説でした。

長い近代化の歴史を通して今にいたるまで追求され、さらにこれからも続けられようとしている、経済成長を前提とし開発を続ける事が人々に幸せをもたらす、とする考え方は今日も世界の常套化している現実が有ります。演説はそれが幻想であることを解き明かし、そのような生き方の結果が世界にもたらした現代社会の持続不可能性を指摘し、あらゆる環境において生きとし生きるものがそれに相応しく在るべき姿を、あるいは目指すべき指針について科学的根拠をもって提示すものでありました。「GNP:国民総生産の追求からGNH:国民総幸福量の追求へ」、かの国の施政に於いて70年代からそれを追求されてきた立場から、今日の世界がむかえた政治、経済、社会における危機的状況に大きく警鐘を鳴らし、持続可能な社会の在り方へのパラダイム・シフトに向けて、幻想の成長指向に深く関わりを持ってきたわれわれ建築家の、新たな在り方を厳しく問いかけるものでありました。

今、私たちはここから深く学ばねばならないと考えます。

大震災と津波そして原発事故を同時被災するという有りうべからざる最悪の事態に遭遇しました。その復興という緊急の課題に取り組むと同時に、この機会に今日までの社会の在り方を総括してみることについて、また復興にあたりその目指すものとしてあらたな視点を持って人々の幸せな社会の構築に向けた真理の追究を問われている事に、自覚的な対応を迫られているものと思います。

パラダイム・シフトを!

生活様式を見直し、価値観の再考を避けがたく問われるところにきているいま、この困難な課題にむけて、希望を持って幻想の過去を「共に超える」新たな価値観の構築に我々建築家はどのような役割をになうことが出来るのか。

問題は明らかです。

「個人的な能力に依拠するのではなく、限りある天然資源や空間を公平に利用する事を旨とし、また、全人類のニーズはすべて平等であり富裕層がこれまで所有してきたものより遥かに少なくて済む、そんな理解に立ち、分別と手頃な範囲内で暮らす」(前掲ブータン首相演説、訳:岩本和夫)。この言葉にあらわされている、持続可能な社会の枠組みをふまえ物質的豊かさと経済の成長幻想を超えた、精神の自由に私たちは日常の営みの希望と豊かさを見いだすという、凡慮ではあるが今までの社会に至難であった高級であることから高貴なことへの価値観の転換が問われています。

全ての人々が人間存在自体を含めたあらゆる自然に畏敬の念をもち、自然とともにある循環型の生活を大切にする穏やかな世界を想像してみようではありませんか。そのような世界を愛でる志は忘れられている私たちのDNAに組み込まれたものであると確信します。再びそのような環境の構築にむけての、あるべき建築の営みとは、それを構想する者、作る者、求める者の全てが連帯して新たな価値観の社会化に努力しなければならないという事です。すなわち、残念な事に一般にはそのような認識が浸透していないにせよ、明らかに我々建築家のプロフェッションは人々の日常の環境を、未来の社会にとっても望ましい在り方に構築する役割をになうものでなければなりません。そして今こそそれに相応しい思考と行動そして倫理を体現しているかが真に問われている時であると考えます。

未曾有の災害を乗り越えるという困難な課題であるとの認識と同時に、この機会を新しい価値観にもとづいた社会の構築に想像力の飛躍を持って臨む希望の試練と受け止め、この建築家大会がその鏑矢となることに成功すべく連帯しようでは有りませんか。

ここ横浜は日本の近代化150年余のスタートとなった地の一つであり、多くの外国文化と触れ合うことで醸成された独特の空間が形成されています。その歴史遺産とともに経済成長社会を投影した最も今日的な都市景観をもあわせ持った場所であります。すべては歴史から学ぶ事で正しい選択が得られ、歴史から学ばぬ態度はそれに失敗するでしょう。多くの参加者が、ここ横浜での90年前に起きた大震災跡の復興記念的な場をも体験されて、新たな時代を想像する有意義な機会となることを念じております。

そのような豊かな体験の場として頂くべく一同今日まで準備に励んで参りました。どうかこの大会を楽しんでいただけますようにと祈念しつつ、こころから皆様の歓迎を申しあげます。

JIA建築家2012横浜 主催:社団法人 日本建築家協会